音楽への感謝と敬意があるから
これからも歌い続けていきたい

Text: KATSUMI WATANABE
Photo: RYO HANABUSA

アクアスキュータムが創業170年を迎え、「続けること」と「続くこと」について考えていく「CONTINUE」のインタビュー連載。ブランドの名作であり、普遍の象徴であるトレンチコートとともに、著名人に「続けること」と「続くこと」を数珠繋ぎに問いかけていきます。3人の著名人から始まるこの企画。今回はそのなかのひとり、シンガーソングライター、エレクトロユニット・Black Boboi(ブラック ボボイ)のメンバー、そしてファッションモデルとしての顔。それぞれのシーンで、全く違った表情を見せるジュリア・ショートリードさんです。構想から6年をかけたファスト・ソロアルバム『Violet Sun(ヴァイオレット サン)』完成までには、様々な困難があったと言います。それでも、彼女の諦めずに続ける意志があったからこそ、『Violet Sun』は美しく、凛として響き、伝わってくるものがあるのです。

Q: ジュリアさんはカナダ人のお父さんと日本人のお母さんの間に生まれたということですが、音楽のルーツはどのようなところにあるのですか?

 

音楽の原体験は父の聴いていた音楽でした。もともと生まれは京都で、3歳の時に、比叡山の中腹部にある住宅地へ一家で移り住みました。父がカナダに近い自然豊かな環境がいいという理由と、インドで仏教を学んでいた経緯から、お寺が身近にあるところで生活を始めたんです。人口1,500人ほどの小さな町で、住宅街のほかに作家のアトリエやスタジオがありました。裏庭をジャングルと呼んでいましたが、遊びに来る友だちがみな驚くほどの山奥で(笑)、自然のなかで遊びまわりながら幼少期を過ごしたんです。

 

両親はパソコンソフトの開発販売会社を経営していたのですが、父は仕事とは別に京都のお寺を散策できるソフトを作ったりしていて、とにかく趣味人。帰宅するのはいつも深夜で普段ゆっくり会うことはあまりなかったのですが、家にいる時にはよくシャーデーを聴いていたんですよね。「すごくいいから!」と子供の私に薦めてきて(笑)。一緒に聴いて「あぁ、カッコいいな」と思ったのを覚えています。私にとっての音楽のルーツは、父の好きだったシャーデーになるのかな。

Q: 自ら歌い、オリジナル曲を制作するようになりますが、音楽の存在はジュリアさんのなかでどのように移り変わっていったのですか?

 

高校生の頃、R&Bシンガーのアリーヤの作品と出合い、とにかく衝撃を受けたんです。私もこんな曲を歌いたいと思ったのですが、すぐにブラックミュージックの道へ進んだわけではなく、高校では軽音部へ入り、ロックやポップスから歌い始めました。部内のバンドを掛け持ちして、レッドホット・チリ・ペッパーズからレベッカまで、いろいろな曲を歌ったんです。「ヴァン・ヘイレンの『PANAMA』も歌うけど、その代わりにカーペンターズの『Yesterday Once More』も歌わせて」とか交渉したりもして(笑)。ライブや演奏するのも良かったけど、メンバーと話し合いながら活動できたことがとてもいい経験だったなと思います。

関西の短大を卒業して、音楽活動の為に出てきた東京でトラックメーカーの方と出会い、念願だったR&Bを実際に歌ってみることになったんです。でも、いざ歌ってみたら、びっくりするほど高揚していない自分がいて。ただ歌いたいだけじゃなく、自分が納得するカッコいい曲が歌いたいんだ、と気付いたんです。夢を抱いて上京したのにいきなり路頭に迷ってしまったのですが、友人のミュージシャンからの勧めもあり、ギターを買って作曲に挑戦してみることにしたんです。弾き語りができるまでには1年ぐらいかかりましたね。

 

最初に自分で書いた曲は、今振り返るとフランス人シンガーのヤエル・ナイムに影響を受けた、カントリーテイストのフォーク。当初は日本語で歌い、発表しようと思っていました。でも、普段の鼻歌ではメロディと同時に英詞が浮かんでくる。無理に日本語詞にせず、自然体の英語で歌ってみたらすごくしっくりきて。歌詞で伝えるより、好きなメロディを美しく表現することが自分にとって最重要なんだと。鼻歌を歌っている時、いつも夢の世界のような映像が見えてくる。そこに自分が感じていることをリンクさせて物語にしていくんです。だから言葉はその映像を具体化する為の存在なんですよね。

アナログ盤『Violet Sun』(ダウンロードコード付)。「1曲目の『Hidden lake』はギターを弾き始めた頃にできたもので、最初は日本語で歌っていました」とジュリアさん

Q: 2021年に発表したファスト・ソロアルバム『Violet Sun』は、シンプルながらサウンドデザインを凝らし、現実と夢の狭間をたゆたうような作品だと感じました。制作には長い年月がかかっているそうですね。

 

2015年に制作を発案したので、構想から6年かかりました。途中作曲を兼ねて、自然が豊かなアイスランドのレイキャビックで2ヵ月の滞在もしたりして。自問自答しながら制作を続けていた頃、2018年に小林うてな、ermhoi(エルムホイ)とバンド、Black Boboiを結成して活動することになったんです。まず、私がermhoiの音楽に出合い惚れて、その後ライブに行ったことで仲良くなりました。プライベートで知り合っていたうてなから「レーベルをやりたいと思うんだけど一緒にやらない?」と声をかけてもらい、3人で曲を作ったことをきっかけにバンドが結成されました。活動が始まってからライブと制作が続き、とにかく刺激的な日々が続いたんです。それぞれソロで活動してきた3人が集まったのでアイデアが溢れるように出て、加速度的に曲ができていって、正直ソロ制作のことも頭のなかから消えてしまうほどでした。

 

2019年の終わりぐらいに3人とも自分のソロを作りたいという気持ちが高まり、’20年にBoboiのアルバム制作と並行して、ソロアルバムの制作も本格的に進めました。コロナ禍で時間ができたので、じっくり取り組むことができましたね。Boboiでの活動を経て、ソロ曲もトラックをまず完成させて、そこに生楽器を重ねていく。そして足しては削ぎ落とすという作業を繰り返し、必要な音を追求し構築していったんです。アルバム全体の完成形が見えるまで、とにかくトライ&エラーを重ね、ようやく’21年に仕上げることができました。

ソロアルバム『Violet Sun』や、Black Boboi『Agate』のレコーディングなどを行ったBang On Studio 代官山にて撮影。「なんか家にいるようで落ち着きます」と語るジュリアさん

Q: ジュリア・ショートリードのソロとBlack Boboiのバンドでは、楽曲制作においてどのような違いがあると思いますか?

 

少し話がそれますが、上京する前からモデルとして活動していたのですが、モデルは人と作っていく仕事。大勢の人が携わり、私が現場に入る前からたくさんストーリーがある。人とコミュニケーションを取ることで作品ができていくんですよね。同じように、バンドの制作もコミュニケーションが面白いんです。Black Boboiで曲を作っている時は、3人で観たことのない映画のストーリーを書いていく感覚というか。音のイメージを「映画『メランコリア』の、あの惑星が迫ってくる風景の音」とか言い合ってイメージを膨らませていったりするので(笑)。「1+1+1=3にならないのがBoboiだよね」と、うてながよく言うけど、その通りで(笑)。完成が想像できないというか。それがバンドの面白いところですね。

 

反対にひとりで音楽を作る作業は、自分の内側に入るので、コンディションによってはなかなか納得いく曲ができないことがあります。バンド活動を通じて改めて感じたことですが、私は外に出て人と会い、いろいろな場所に行き、吸収して、そのなかで生まれる感情と内側でじっくり向き合いながら作品を作るタイプなんだなと。モデルはどこかで音楽制作を続ける為の糧という気持ちでしたが、実は自分の創作にとって欠かせない仕事でもあったな、と振り返って感じています。でも2016年にレイキャビックへ渡る前、音楽とモデルの仕事の双方が中途半端になってしまうと感じ、一度モデル業から離れたことがありました。それから3ヵ月間誰にも会わず、集中して作曲に打ち込んでいましたが、なかなか思うようにいい曲ができなかった。そんな時に気晴らしに外へ出てみたら、偶然恋をして、嬉しいことや葛藤などいろいろな感情が湧いてきて、いい曲が書けたんです。創作のインスピレーションはいろんな音楽を聞くこと、そして人とのコミュニケーションや日常で湧き起こる感情をもとに作っているんだなと思います。

Q: 『Violet Sun』をはじめ、ジュリアさんの楽曲は儚い美しさと、どこか力強さが同居していると感じました。その魅力は、苦悩の末に得た才能じゃないでしょうか。音楽に執着した理由はあるのでしょうか?

 

作風が固まる最中やアルバムが出来上がるまで、いろいろと悩みながら進んできたので、かなり時間がかかりました。でも音楽は自分を表現する、癒す手段でもあったので、やめようと思ったことはないですね。上京して葛藤や気付きを繰り返していくなかで、辛い時もいい音楽を聴くこと、曲を書くことで、心が解放され前向きにまた頑張ろうって思えて、音楽に助けられたことがたくさんありました。続けていたから、Black Boboiのような出会いがあったり新しいことが待っていたので、これからも音楽を通して何が起こるのか楽しみです。音楽も、モデルという被写体としての仕事も、どちらも私を形成する表現だと思っています。これからも人と出会い、変化のなかで起こる感情を大切に、音楽を紡いでいきたいです。

「高級で良質なイメージがあったアクアスキュータムですが、実際に袖を通してみると、すぐに生地の良さ、仕立ての良さがわかりました。自分の子供や孫の世代にまで繋いでいけるコートだと思います」と、クラブチェックの『C.C TRENCH』を着用したジュリアさん。コートから覗かせるのは、私物の古着のロングスカートとマルジェラの足袋ブーツ。「コートのチェックの色合いが素敵なので、コートが主役になるようなコーディネートにしました(ジュリアさん)」

アーティスト

ジュリア・ショートリード

カナダと日本をルーツに持ち、ギターとラップトップを使い作詞作曲を行う。2018年には小林うてな、ermhoiとバンド・Black Boboiを結成し、アルバム2枚、シングル3枚をリリース。2021年1月にソロアルバム『Violet Sun』を発表し、3月にはアナログ盤もリリース。また、FUJIROCK’21 に出演を果たす。8月25日に 発売されたcero荒内 祐のファストアルバム『Sisei』にボーカリストとして参加している。Instagram @juliashortreed

to be CONTINUED B side

CONTINUE