「現場」に立てる喜びを胸に次のステージへ

Text: SHINO SAKAMOTO
Photo: YUTO KUDO

ブランド誕生から170周年を迎えたアクアスキュータムが、今、改めて「続けること」と「続くこと」を考えるインタビュー連載。ブランドの名作であり、普遍の象徴であるトレンチコートとともに、著名人に「続けること」と「続くこと」を数珠繋ぎに問いかけていきます。アーティスト・コムアイさんからのバトンを受け取ったのは、日本のクラブカルチャーシーンを牽引するDJ・Licaxxxさん。現場に少しずつ音楽が戻ってきた今、彼女が考える、フロアの音楽が絶えず鳴り続ける為に大切なこととは。

Q: 音楽のシーンでも活動に制限があった時期が長くありましたが、オンラインでミックスを配信されたり、積極的に活動されていた印象です。その時はどんなことを考えながら活動していたのですか?

 

当時は夢中で動いていたので、あまり覚えていないんですよね。やれることをとにかくやった感じ。現場で音楽を聴くことができなくなった時に、クラブミュージックは今後どう楽しんでいくのかとみんな考えたし、それはこの先も探していく必要がある。現場に戻ってきて、みんなで音楽を楽しめる尊さを噛み締めています。

Q: 今日の撮影場所としてリクエストいただいたこのcontactも、大事な現場のひとつと伺っています。

 

そうなんです。何度もイベントに出させていただいていますし、プライベートでも何度も遊びに来た大事なホームです。ビル全体が取り壊しになるということで、9月にクローズになってしまうのが本当に残念です……。思い出が詰まったここで撮影をして残せたらと思い、今回リクエストさせてもらいました。

Q: ライブができなかった時期をポジティブにとらえると、Licaxxxさんにとって「現場」がどれほど大切な場所であったか、改めて振り返る機会だったのかもしれませんね。

 

そうですね。ずっとクラブという場所でのDJ活動は続けていきたいと改めて思いました。ただ、またいつ現場に行けない状況になるか分からないとも思っていて……。それがパンデミックなのか戦争なのか天災なのかは分からないけど、そんな状況がいつきてもおかしくない、ということは常に考えておくべきだし、その上で、音楽を文化としてどう続けていくのかは別のものとして考えるべきだなとも思っています。

カルチャーが継続しやすい形として、音楽もコミュニティも現場にあることが一番だと思うんですけど、それとは別のステージも想像する必要もあるなと。それによって新しいカルチャーがまた生まれるかもしれない。この2年間は、オンラインによるコミュニティのあり方や、別の軸で音楽を発展させる方法を、みんなが強制的に考えさせられた良い機会だったのでは、ととらえています。

Q: これまでのキャリアについても聞かせてください。中学から高校まではバンド活動をされていたかと思うのですが、クラブミュージックやDJに興味を持ち始めたのはどんなきっかけがあったのですか?

 

ラジオの影響が大きいですね。音楽の情報はラジオから仕入れていたのですが、自分で楽器を弾いたり歌ったりする以外の表現方法があることをそこで知ったんです。特にJ-WAVEが好きだったのですが、ジャイルス・ピーターソンがお昼にやっていた15分番組をMDに録音してよく聞いていましたね。今と比べると、洋楽やワールドミュージックがたくさんかかっている時代で、そんな番組をずっと聞いていたという感じです。

 

Q: LicaxxxさんがDJを始めた時はCDを使われていたと思いますが、現在はどんなバランスでやられているのですか?

 

CDが基本でしたが、どんどんレコードが増えていって、今は半分ずつくらいですね。今日持ってきたレコードは最近購入したものです。時間がある時にネットでバーッと視聴をして、良いなと思ったものをまとめて買っておいて、購入してからじっくり聴きます。中古のものはある程度年代やジャンルで絞り込みつつ、最近は’89年から’93年ぐらいまでのUKのリリースを中心に買っています。

Q: 慶応SFCの大学在学中から音楽活動を始められて、卒業後に現在のマネジメント事務所に所属されましたが、同時にスタッフとしても入社されているんですよね。それはLicaxxxさんのアイデアだったのですか?

 

そうです。DJだけをやるというイメージが全然湧かなかったんです。当時、音楽は趣味だと思っていたし、その頃から編集やライターの仕事もしていてメディアを作りたいと思っていたので、そのような形を提案しました。自分の名前が前に出ないようなプロジェクトもいっぱいやりたかったんです。

学生時代、制作会社などでインターンをやっていたのですが、音楽がいろいろな場所で共有されるところを見てきました。例えば、自分の好きな音楽がCMに起用されたりだったり。自分で交わりを作っていくことも面白いなぁと、その頃から思っていました。

Q: DJ以外にも幅広く活動されていますが、やはりDJがご自身を形成するものの中心にあるという思いは変わらないのでしょうか?

 

はい、やはりクラブDJが基本です。ただ、音楽をいろんな形で伝えることについては分け隔てなく考えていて、書くのか喋るのか、もしくはクラブでやるのかは同じことかなって思っています。聴いてくれる人や受け手が変わるだけで、こちらがやることはあまり変わらないのかなとも思います。

撮影は、今秋でクローズすることが決まっている渋谷・道玄坂にあるcontactにて。自分がプレイする場所としてもプライベートでも思い出深い場所だと言う

Q: ファッションショーの音楽を制作されたり、ファッション関係のお仕事もたくさんされていますよね。ファッションと交わる面白さはどんなところに感じていますか?

 

ショーの音楽を作るのはすごく好きですね。デザイナーやスタイリストがいて、自分とはまた違うクリエイティブな人と会話をしながら作り上げていくのは面白いです。

Q: トレンチコートは普段着られますか?

 

たくさん持っていて大好きなんですが、変形デザインものばかりで。今回のようなオーセンティックな形のものに袖を通すのは初めてで新鮮です。ベーシックに着てしまうと私らしくない気がしたので、とにかく「外すこと」を考えてスポーツ感を取り入れてみました。ファッションに関しては、普段から型にはまり過ぎず自由に着ることが自分らしさかなと思っています。

Q: 今後の活動についても教えてください。夏のフェス情報を目にするようになってきましたが、今年はどんな夏になりそうですか?

 

去年、一昨年と開催できなかったけど今年ようやくできる、というフェスが増えそうですよね。クラブも普通の状態に少しずつ戻ってきて、ようやく夏が戻ってきたという感じになりそうです。私もまずは、やっと開催できた喜びみたいなものを一通り味わうだろうなって思います。ただ、それ以降、現状維持に走ってしまうと音楽も自分も衰退してしまうと思うので、常に新しいことに挑戦しながらやっていきたいと思っています。

Q: 今後やりたいことなど、何か考えていることはありますか?

 

もう少し海外に行きやすくなったら、またロンドンへ行きたいですね。私はロンドンの音楽にずっと影響を受けてきたし、ツアーでヨーロッパに行く時は毎回ロンドンを入れてきました。以前、「Boiler Room」(ロンドンで生まれた世界的なライブストリーミングメディア)でプレイさせてもらった動画がきっかけで、海外に呼んでいただくことが一気に増えて、向こうに友達もできたので。

それと実は今、音のインスタレーションを作っていて、それは今までとはちょっと違う感じになるかな、と思います。YCAM(ワイカム)で年内に展示する予定なんですが、いつもと違って自分が現場にいるのではなく、展示作品を介してのコミュニケーション設計をしなければいけないので、そこが取り組む上での面白みでもあります。展示の名義はLicaxxxになりますが、大学の研究室で一緒だったメンバーと組んで、作っている最中です。

NIKEのブルゾンとトラックパンツを合わせたスタイルにトレンチコートを羽織ったLicaxxxさん。足元はジョーダン5。学生時代にバスケをやっていたというLicaxxxさんにとって、スニーカーは愛すべきアイテムのひとつ

DJ・アーティスト

リカックス

東京を拠点に活動するDJ、ビートメイカー、編集者、ラジオパーソナリティ。2016年に「Boiler Room Tokyo」に出演した際の動画は40万回近く再生されており、「FUJI ROCK FESTIVAL」など多数の日本国内の大型音楽フェスや、「CIRCOLOCO」などヨーロッパを代表するクラブイベントに出演。日本国内ではPeggy Gou、Randomer、Mall Grab、DJ HAUS、Anthony Naples、Max Greaf、Lapaluxらの来日をサポートし、共演している。さらにジャイルス・ピーターソンにインスパイアされたビデオストリームラジオ『Tokyo Community Radio』を主催。若い才能に焦点を当て、日本のローカルDJのレギュラー放送に加え、東京を訪れた世界中のローカルDJとの交流の場を目指している。Instagram @licaxxx1

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