衝動性と思慮深さを天秤にかけ、見つけだした自分らしさ

Text: SHINGO SANO
Photo: SAYURI MUROOKA(SIGNO)

アクアスキュータムがブランド誕生から170周年を迎えた今、改めて「続けること」と「続くこと」を考えるインタビュー連載。時代の変化に寄り添いながらも、確固たるアイデンティティを守り、育んできたアクアスキュータム。その価値観に共鳴するクリエイターたちに、「続けること」と「続くこと」の意味を数珠繋ぎに問いかけていきます。今回、ヘアメイクアップアーティストの木村一真さんからご紹介いただいたのは、俳優のみならず、モデルやシンガーソングライターとしても注目されている藤江琢磨さんです。誰かの真似をするのではなく、常に自分自身のスタイルを貫き通している藤江さんに、俳優を夢見たきっかけや、10年後の自分の姿について聞きました。

Q: ヘアメイクアップアーティストの木村一真さんからのご紹介でしたが、いつ頃からのお知り合いですか?

 

6〜7年前に大勢いる飲みの席で知り合って、当時キムさんが働いていた祐天寺のダーリンという美容室に呼んでもらったことをきっかけに、それ以降ずっと、キムさんに髪を切ってもらうようになりました。ちょうどこの前も、キムさんからパリコレに行く前に練習させてと頼まれて、撮影のモデルになってきました。

Q: 今日は三軒茶屋にあるニコラというカフェに呼んでいただきましたが、ここにはよく来られるんですか?

 

ここは東京に来てから一番多く通っているカフェだと思います。東京で初めて住んだのが三軒茶屋で、最初は友達に教えてもらって来たんですが、居心地が良いからひとりでも来るようになりました。何度かライブをやらせてもらったこともあります。今は別のところへ引越ししてしまいましたが、このお店に来る為に三軒茶屋には頻繁に来ています。

Q: なぜ三軒茶屋を選んだのですか?

 

生まれが静岡で、中高は神奈川の学校に行って、大学に入学するタイミングで上京して来たんですが、昔からBMXをやっていたこともあって、BMXの練習ができる駒沢公園の近くが良いなということで探していたら、駒沢公園が近くて、近所にも世田谷公園がある三軒茶屋の物件が出てきた感じです。

Q: 音楽活動もされていますが、音楽はいつ頃からやられているんですか?

 

曲作りみたいなことを始めたのは大学時代で、先輩とラップの曲を作ったりしていたんですが、その先輩が税理士を目指さないといけない事情があって、なあなあで終わっちゃいました(笑)。ギターを始めたのは5年ぐらい前で、友達の影響で一緒にやってみたら、すぐにハマっちゃった感じですね。熱しやすいし、のめり込みやすいんです。ここ半年ぐらいはスケボーにハマっていて、最初は役作りで始めたんですけど、今はもうプロになりたいぐらい熱中しています。だから最近は曲作りもあまりできていないんですよね(笑)。

Q: 学生時代はどんな生徒だったんですか?

 

学校ではずっとふざけているタイプでした。でも中学の頃に、謎に周りからハブられた時期があって、いろんなグループを転々としていたら、最終的に当時学校で一番ヒエラルキーが高かったアメフト部に行き着きました。そこで一気にいじられキャラになって、昼休みになると教卓の前に立って一発芸をやったり(笑)。高校2年生ぐらいからは、ヒップホップとか洋服にどんどん傾倒していった感じですね。

三軒茶屋から引越した今でも、ニコラには月に数回の頻度で来店しているという藤江さん。静かな店内では、周りを気にせずリラックスすることができるんだとか

Q: 当時はどんな音楽とかファッションが好きだったんですか?

 

最初に好きになったのはRIP SLYMEで、そのあとビースティ・ボーイズが好きになって、ビースティが東京のストリートカルチャーにも繋がっているっていうことで、世代ではないですが、裏原ファッションにも憧れました。だから普段服を買うのは古着屋さんがほとんどで、’90年代のものに惹かれることが多いと思います。

Q: ここまで音楽の話が多いですが、俳優になりたいと思ったきっかけは何だったんですか?

 

一番最初に俳優の夢を意識したのは、染谷将太さんの『ヒミズ』を観た時でした。単純に「染谷くんカッケー!」から始まって、それから園 子温監督の作品を遡って観るようになったんですが、そのあとショーケンこと萩原健一さんの音楽にハマって、映画も観るようになったら、昭和の映画にもどっぷりとハマっちゃいました。最近だと昭和をさらに遡って、ザ・スパイダースみたいなグループサウンズとか、フランキー堺さんのコメディなんかをひたすら観続けています。ちょっと話が脱線しましたが、高校の頃、卒業を前に自分の夢をプレゼンする課題があって、そこで挙げたのが「俳優」「監督」「音楽」の3つでした。

Q: 昨年に自主制作で短編映画を撮られていましたが、その時の3つの夢はすでに達成できていますね。

 

あ、確かにそうですかね(笑)。全然実感ないというか、確かに第一歩かもしれませんが、自分が思っていた夢とはかけ離れているので、まだまだですね。大学の時も脚本を書いたことがあって、その時は友達に監督を任せたんですが、彼女が借りてきたカメラにカビが生えていて、1日だけ撮影してやめちゃったんですよね。確かラストシーンを撮っていた時に、撮影で使っていたチャリの鍵をなくしてしまったので、友達に後輪を持ち上げてもらいながら僕がこいで乗り切ろうとしたんです。そしたら友達がこけちゃって、怪我をして終わるという、そんなことがありました(笑)。

駒沢公園よりもローカル感の強い世田谷公園。駒沢公園ほど広くはないが、BMXを利用できるスケートパークもある

Q: 10年後の藤江琢磨さんはどんなことをしていると思いますか?

 

あんまり先のことは考えないんですが、台湾とか、韓国を足掛かりに、海外でも活躍できるようになっていたいですね。今、中国語と英語を頑張って勉強しているので、10年後には海外にも拠点を持てるようになれていたら良いなと思います。外に出て行くっていうのは最近特に意識していることで、コロナで外出ができなくなった時に、どんどん気持ちが内向的になっていき、姿勢もどんどん猫背になって、余計なことばかりを考え込んでしまうようになったんです。客観的に見て、そんなやつ全然面白くないですよね。バカやっていた学生時代のほうが面白かったし、心も開いていたと思うんです。だから最近は、頭のなかを空っぽにして、何も考えずに没頭できるスケボーをやっている時間がすごく楽しいのかもしれません。その衝動的な部分と、物事を深く考える部分のどちらにも偏らず、うまくバランスを取っていくことが、これからの目標です。僕、天秤座なんで(笑)。

Q: 海外の映画も好きなんですか?

 

高校生の頃はジム・ジャームッシュとかレオス・カラックス、あとはアジアだとウォン・カーウァイの映画が好きでした。今日はトレンチコートを着ましたが、『恋する惑星』で金城 武さんが着ていたベージュのコートもカッコ良かったですよね。僕の場合はトレンチっていうと、やっぱり映画の登場人物が着ているイメージが強いですね。ショーケンさんももちろん、僕が好きな昭和の俳優たちは、みんなカッコ良くトレンチを着ていました。

Q: トレンチコートを着た主人公が出てくる映画を撮るなら、どんな映画になりますか?

 

僕は結構先に絵が思い浮かんでくるタイプなので、話の筋はよくわからないですが、『ギターを持った渡り鳥』の小林 旭さんみたいな人が、トレンチコートの背中にギターを背負って、街中を馬に乗ってさすらっている感じじゃないですかね。今やるならエレキギターで、馬にスピーカーが内蔵されているような感じが良いかも(笑)。

昭和の映画が好きということもあり、着こなしにどこか昭和感が漂う藤江さんのスタイリング。ヒップホップからの影響もあり、足元はアディダスのスニーカーが定番

俳優・モデル

藤江琢磨

ふじえ・たくま 1995年静岡県生まれ。大学在学中から活動を開始し、2017年に映画初出演を果たす。今年は6月に公演した舞台『wide』、7月公開の映画『モダンかアナーキー』と『PLASTIC』のほか、公開予定の『LONESOME VACATION』『オクトーバー(仮題)』など主演作品が続く。自身で作詞・作曲した楽曲はSoundCloudやYouTubeチャンネルで公開中。Instagram @fujie_takuma

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