大好きなことを続ける為に、守りたかったこと

Text: SHINGO SANO
Photo: SIO YOSHIDA

アクアスキュータムがブランド誕生から170周年を迎えた今、改めて「続けること」と「続くこと」を考えるインタビュー連載。時代の変化に寄り添いながらも、確固たるアイデンティティを守り、育んできたアクアスキュータム。その価値観に共鳴するクリエイターたちに、「続けること」と「続くこと」の意味を数珠繋ぎに問いかけていきます。今回、名古屋モード学園の吉田光孝さんからバトンを受け取ったのは、ストリートスナップのフォトグラファーでジャーナリストのシトウレイさん。長年世界各地のストリートスタイルを撮り続けてきた彼女が、好きなことを続ける為にしてきたこととは?

Q: 名古屋モード学園の吉田光孝さんからご紹介いただきましたが、吉田さんとはどういった繋がりがあるのですか?

 

もともと東京、名古屋、大阪のモード学園で年に一回スペシャルセミナーをやっていて、そこで知り合ったのが最初ですね。つい昨日も、長野県に新しくできたセレクトショップを取材するプレスツアーでご一緒してました。吉田さんは生徒さんに机上の学問だけじゃなくて、現場のリアルな声を聞かせたいっていう思いを持っていて、すごく先生として熱い人っていう印象です。専門学校って2年で人生の進路を決めるところだから、真剣勝負ですよね。

Q: シトウさんはまず、大学在学中にモデルとしての活動を開始されましたが、フォトグラファーになったきっかけは?

 

ある日編集部に呼び出されて、「レイちゃんが面白いと思う人を撮ってきて」って、突然カメラを渡されたのがきっかけです。今思えばだいぶざっくりとしたオーダーでしたが、ただ自分の「好き」っていう感覚に素直になればいいわけだから、最初から戸惑うことなくストリートスナップを始めることができました。もし「こういう感じの人を」って言われていたら、多分こんなに楽しんで続けることはできなかったかもしれません。

Q: とはいえ、いきなり街に出て、道ゆく知らない人に声をかけて、不慣れな写真を撮るというだけでもハードルが高そうなイメージがありますが。そこもすんなりクリアできましたか?

 

その時は断られたらどうしようとか、怖いとか、嫌だなっていう感じは全然なくて、ただ面白そうっていう気持ちのほうが勝っていましたね。ストリートスナップって、街中で宝物を探している感覚に近いんです。でもずっと同じように写真を撮り続けていると、「あれ、私って何が好きなんだっけ?」「カッコいいってなんだっけ?」ってスランプに陥ることもあるから、そのたびに一回スタートポイントに戻って、自分自身の写真を見直して、自分の「好き」をしっかり再確認するようにしてきました。

 

写真を見返しながら、自分が好きと思った理由を書き出したりしてみると、こういうバランス感が好きなんだとか、こういう色の組み合わせ好きだよねとか、この人は圧倒的に顔がタイプだよねって、ちゃんとわかってくるんです。そうやって自分が好きなテイストを客観的に理解できると、また撮れるようになる。かれこれ20年近くストリートスナップを撮り続けていますが、そうやって常に迷っては戻り、また迷っては戻りっていうサイクルを繰り返しています。でも、その「好き」もトレンドもどんどん移り変わっていくから、そのたびに自分のなかで咀嚼して、あれも好き、これも好きっていう風に都度アップデートしています。

Q: そうやって「好き」をアップデートしていくと、写真の撮り方も変わっていくものですか?

 

はい。どうしても自分の勝ちパターンみたいなものが見えてくると、自分で自分の真似をするようなタイミングが出てくるんです。ここでこう撮ったら絶対カッコいいし、みんなが求めるザ・原宿みたいな絵が撮れるみたいな。でも、それをやっちゃだめなんだと思うんです。自分自身撮っていて面白くないし、成長がないなって思っちゃうんです。そうやって惰性で写真を撮っていたら、とっくに飽きていたと思います。

Q: 毎日のようにストリートスナップをやっていると、体調や、天候や、人とのコミュニケーションを通して、いろんなアップ&ダウンがあるのでは? と想像します。それでも毎日撮り続ける上で、モチベーションを保つ秘訣は何かありますか?

 

やっぱり良い写真が撮れたとか、すごく良い人に出会えたとか、時代感をうまく切り取れたとか、腹落ちする写真が撮れた瞬間っていうのは、いつになっても「やった!」って思います。あとは、スナップを撮らせてもらう時は、個人的なことを色々とインタビューさせてもらっているんですが、その人の人となりを知って、それを写真で表現できたって思えた時は、すごくやりがいを感じます。その感覚を味わいたいから、続けていけるんだと思います。

東京のストリートスナップの聖地と言えるのが、表参道の神宮前交差点。シトウさんがストリートスナップを始めた頃は、現在の東急プラザの場所にGAP原宿店があり、常に複数のスナップチームが活動していた

Q: 最近はストリートスナップ以外にもいろいろとお仕事をされていますが、今でも街中に立ってストリートスナップをやることは多いですか?

 

ライフワークですから。もちろんやっていますよ。先週はパリコレだったので、パリの街でひたすら撮影していました。でも、ストリートスナップを始めた当初と今を比べると、街の見方みたいなものはだいぶ変わったと思います。昔はただ自分の「好き」を集めることだけに専念していましたが、今はセミナーやコラムなどでトレンドを伝える役割をいただけるようになったので、ジャーナリスティックな視点というか、時代感を切り取る意識も強くなっています。でもそればっかりじゃ自分がつまらなくなっちゃうと思うので、個人的な「好き」も大事にして、その両方のバランスには気を付けています。宝物探しっていう感覚は、何年経っても全く変わりません。

 

Q: やっぱり実際に街に立って、道行く人を見て、話して、撮影をすることがお好きなんですね。

 

それはコロナ禍になって改めて実感しました。情報としては、人に会わなくてもオンラインでいくらでも手に入りますが、やっぱり自分自身の目で見て、聞いて、触れ合った経験がないと、どうしても腹落ちしないというか、情報として上っ面な気がして、納得することができないんです。

Q: 特に原宿という街は、若者のいろんな人生模様が見られて面白いですよね?

 

毎回新しい人に出会えるし、そのたびに自分も新しい刺激をもらえます。原宿は地方から出てきて、自分自身を表現して、夢を叶えていくような人たちも多い街だから、そういう報告も頻繁に受けます。よく覚えているのが、アイウェアのセレクトショップでバイトしているんだけど、日本を代表するあるブランドが大好きで、正社員募集に何度も応募している子がいたんです。何度目かでようやく念願が叶って採用が決まったんですが、しばらくすると、全身そのブランドで着飾っていたはずの彼が、いろいろなブランドの服をスタイリングして現れたんです。そのブランドに入るまでは、憧れも強くてそれしかあり得ないと思っていたけど、実際に社員になってファッションを俯瞰的に見れるようになってみると、いろんな世界があることに気付いたんだって言うんです。彼はしばらくキャリアを積んでから独立して、今では青山で自分の店をやっています。そういう成長を目の当たりにできるのも、ストリートスナップならではの経験です。

Q: 大好きなストリートスナップを続けていく為に、努力したこと、心がけたことはありますか?

 

ストリートスナップって、フォトグラファーもエディターも、一番駆け出しのチームがやる仕事だっていう認識がファッション業界にはあって、みんな早く卒業したいと思いながらやっていると思うんです。でも私はそれが一番好きでやり続けていきたいから、その為にはどうするべきか考えました。まず単価も上げていかなきゃいけないし、その為にはスナップフォトグラファーとしての地位も上げていく必要があります。地位を上げる為には、ほかの誰でもなくて、私に撮られたい、私に撮らせたいって思ってもらうことが重要。

 

だから写真だけを掲載するスナップ雑誌とは別に、自分で「STYLE from TOKYO」っていうブログを立ち上げて、撮ってきた写真に文章を添えるようにしました。スナップの後にインタビューをしていると、例えば家族思いな面とか、芯が強そうに見えて実は悩んでいたりとか、こういう甘ったるい声で話すとか、その人の魅力がたくさん見えてくるから、それを自分なりの言葉でまとめていくことを始めたんです。自分のストーリーを誰かに聞いてもらって、理解してもらうことって、すごく嬉しいことじゃないですか。あとは、よく喧嘩もしました(笑)。やっぱり業界的に、スナップは駆け出しの仕事って思われることも多いから、めちゃくちゃ報酬が低かったり、写真の扱いが悪かったり、人物だけ切り抜かれたり……。やっぱり自分や自分の作品を安く売っちゃうと、撮られて嬉しいフォトグラファーにはなれないだろうなって思うから、「私はその報酬ではやらないし、風景も込みで撮っているので、切り抜かないでください!」とか生意気なことを言って、よく雑誌の人たちと戦っていました(笑)。

Q: 最近街中で見た印象的な着こなしはありますか?

 

今回、パリで男の子たちがトレンチコートを着ているのをよく見かけたんですが、それがすごくクリエイティブな着方だったのが印象的でした。トレンチコートをワンピースとして考えて、その上に大きなニットを着るとか、コートの上にデニムシャツを着て、ウエストをベルトでマークするとか。ストリートのファッションってそういう勢いがあるし、美しい、正しいだけじゃなくて、自分が面白いと思ったことをそのまま表現していい場所なんです。今パリのキッズたちは、カスタマイズやリメイクを楽しむような、すごくクリエイティブな子が多いです。そういうDIYや、自分だけの着こなしを楽しむ題材としては、デザイナーズアイテムよりも、トレンチコートやデニムパンツみたいな定番がいいんだと思います。

一日中街を歩き回りながら、道行く何十人にも声をかけ、撮影、インタビューしていく一連の作業は、想像以上にハード。しかしシトウさんは、いつ見ても彼女の被写体に負けないぐらいお洒落で、颯爽としている

Q: シトウさんご自身は、トレンチコートっていうアイテムに関して、どのような印象を持っていましたか?

 

トラディショナルで、デニム、白シャツ、トレンチコートみたいに、みんなが絶対持っている永遠の定番。私も色違いで2〜3着持っています。今日着たアクアスキュータムのトレンチも、昔から同じもののように見えて、実は時代のスタンダードに合わせて変わり続けているんですよね。そこがいわゆるデザイナーズブランドと比べて、歴史も含め、抱えているものが全然違うなっていう印象です。全く新しいものを作り出すわけじゃないけど、常に新しくいなきゃいけないって、相当難しいチャレンジだと思いますよ。続くこと、続いていくことには、変わることと変わらないこと、譲れることと譲れないことがあって、そのバランスを上手に取っていくことが、老舗が老舗たる由縁なんだろうなって思います。私のストリートスナップもそうですが、頑なに自分のスタイルを押し通すばかりではなくて、トレンドとうまく付き合うことで自分も成長できる。進化できるっていう部分では、繋がっている部分もあると思います。

現在は2020年に立ち上げたYouTubeチャンネルにも注力し、国内外のコレクション情報や、ショップ、スナップ、スタイリング提案など、様々な情報を発信する。11月25日(金)〜12月10日(土)まではオンラインファッションセミナーを開催予定。コレクション情報をかみ砕いたリアルトレンドをレクチャーするそう。受講の詳細はhttps://reishito.stores.jp/をチェック

フォトグラファー・ジャーナリスト

シトウレイ

石川県生まれ。ストリートファッション誌『STREET』『FRUiTS』『TUNE』で経験を積んだ後、2008年に国内外のストリートスタイルを紹介するブログ「STYLE from TOKYO」をスタート。著書に東京ストリート写真集『STYLE from TOKYO』(discover21)、東京ガイド『日々是東京百景』(文化出版局)など。現在は自身のYouTubeチャンネル「シトウレイ チャンネル NEW !!!」にも注力している。Instagram @reishito

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