ガラクタとアンティークの境界を問う、
“なんでもあり”な内田式古着道

Text: SHINGO SANO
Photo: JUNPEI KATO

アクアスキュータムがブランド誕生から170周年を迎えた今、改めて「続けること」と「続くこと」を考えるインタビュー連載。時代の変化に寄り添いながらも、確固たるアイデンティティを守り、育んできたアクアスキュータム。その価値観に共鳴するクリエイターたちに、「続けること」と「続くこと」の意味を数珠繋ぎに問いかけていきます。今回、スタイリストの大久保篤志さんからバトンを受け取ったのは、中目黒の顔とも言えるヴィンテージショップの名店、JANTIQUES(ジャンティーク)のオーナーである内田 斉さんです。35年間古着と向き合い続けてきた内田さんが、モチベーションをキープし続けている秘訣とは?

Q: JANTIQUESは2005年にスタートしましたが、いよいよ20周年も目前に見えてきました。今改めて振り返ってみて、どんなお気持ちですか?

 

JANTIQUESを始める前に原宿のサンタモニカで働いていた時も含めると、古着に関わってかれこれ35年。大久保さんも「気付いたら40年」と言っていましたが、本当にそんな感じですよ(笑)。

Q: JANTIQUES開店当時、古着を軸にライフスタイル全般をカバーするスタイルがとても新鮮で、中目黒の盛り上がりとともに、一時代を作り上げてきたイメージです。そもそもどのようなコンセプトで始められたんですか?

 

サンタモニカでは古着以外は扱っていませんでしたが、JANTIQUESで古着以外の要素をなんでも取り込んでいくようにしたのは、大好きな古着に飽きてしまうことがないようにする為でした。古着の買い付けって、毎回2ヶ月ぐらい滞在するんです。サンタモニカ時代は2ヶ月アメリカに行って、4ヶ月日本にいて、また2ヶ月アメリカっていうサイクルを10年ぐらい続けていました。アメリカでは暇な土日に車で出かけると、どうしても雑貨とか、家具とか、インテリアとか、古着以外のものにも興味が向かっていくんですよね。だから自分がお店をやる時は、そういう家ごと紹介できるようなお店にしたいと思うようになったんです。

Q: 今でこそ、ファッションとライフスタイルは密接な関係性となっていますが、2000年代初頭の段階では、まだそういう提案をするお店は見かけませんでした。興味のおもむくまま、その時に気になったものを幅広く取り込んでいくことが、そのままJANTIQUESのスタイルになった感じですね?

 

そうですね。昔はファッションでも、車でも、時計でも、自分の好きなジャンルのものにはものすごく気を使っているのに、それ以外のことには全く興味がないっていう感じの人が多かったと思います。でも僕からすると、壁紙も、ドアノブも、電球も、家具も、生活の周りにあるものすべてに興味があるんです。何から何までいちいちこだわって、面倒臭いヤツって思われますけどね(笑)。アメカジの古着だけに絞らずに、ヨーロッパでも、アフリカでも、世界中どこに行っても買い付けができるようにすれば、何年やっても飽きないと思ったんです。ブレるブレないで言うと、ブレまくりかもしれませんね(笑)。でも’80年代から諸先輩方が築き上げてきた“古着道”っていうのは僕なりに継承しながら、そればかりに囚われず、自分だけの価値基準で買い付けをできるようにしたかったんです。

内田さんが世界中から買い付けてきたアイテムが、所狭しと並ぶ店内。よく見るとパートごとにテーマ性があり、ディスプレイのアイデアにも洗練された独特のセンスが光る

Q: 確かに、’90年代の古着ブームの時は、年代やデッドストックといった価値基準が前提にあって、ファッションやライフスタイルというよりも、物欲を刺激する面白さがありました。JANTIQUESではそれを踏襲しながら、もっと楽しみ方の幅を広げているイメージを受けます。古着道も日々進化しているんですね?

 

そもそも、古着ってものすごく自由なものですよね。自分の好きなように買い付けてきて、好きなように売っていいんですから。買ってきたものをカスタマイズしてもいいし、高級ブランドと並べてもいいし、なんでもありなんです。最近は自分たちでセレクトした新品と、古着を並べて売っているようなお店も増えています。今世界的に、若い世代の古着ブームがすごいみたいなんです。うちの息子なんかも、下北沢とか三軒茶屋の新しいスタイルの古着屋に通っているそうですよ。

Q: そうやって自由な発想になると、買い付けもより楽しくなりそうですね?

 

長年やっていますが、いまだに買い付けは本当に楽しいです(笑)。ロンドンのヒースロー空港で入国審査の列に並んでいると、そういう「なんでもありなんだ」っていう感覚を、心から実感できて面白いですよ。なぜかロンドンは、ニューヨークとかロスみたいなアメリカの都市よりも、よりダイレクトに多様性を感じられるんです。ヒースローの入国審査には、アフリカ、東欧、アジア、カリブ、南米、中東と、あらゆる地域から人が集まっていて、民族衣装をはじめとする、それぞれの文化をそのまま持ち込んできますからね。それこそオリンピックの開会式みたいな雰囲気で、眺めているだけですごく楽しい気分になるんです。古着っていうと、古き良きアメカジみたいな世界観があるけど、彼らを見ていると、みんなそれぞれ最高にカッコいいじゃんって思えるんです。だから買い付けの時も、今回は何を買おうっていうお品書きみたいなものは全然なくて、毎回その場で出合った面白いものをフィーリングで買ってくるんです。極端な話、これが欲しいっていうのが決まっていたら、わざわざ海外まで買いに行かなくても、今の時代はネットで手軽に買えちゃえますからね(笑)。

前回の買い付けで仕入れてきたアクアスキュータムのヴィンテージ。ステンカラーもトレンチも、お店のラインナップには欠かすことのできないアイコニックなアイテム

Q: そういう即興性を大事にしているから、常に新鮮さや、何が出てくるかわからないワクワク感を保てるんですね。今までの価値基準が当てはまらないものでも、自分が面白いと思ったものが実際に売れていくのを目の当たりにすると、とても達成感がありそうですね。

 

そうですね。どんどんお店に変なものが増えていくんですが、そういうのが好きな人たちも世界中から集まってきます。コロナ禍以前は、お客さんの半分が外国人でした。誰かにとってはガラクタでも、誰かにとっては宝物になる。ものの捉え方によっては、ジャンクもアンティークになるっていう思いが、直接店の名前の由来になっています。単純明快で、世界中の誰にでもわかりやすい名前だから、我ながらとても気に入っています。

雑貨、家具、レディス、ストリート、アメカジ、ブリティッシュ……。広い店内を奥へ奥へと進んでいくと、数メートルごとに世界観がガラリと変わり、まるでテーマパークのアトラクションのよう

Q: 今日はクラブチェックのステンカラーコートを着ていらっしゃいますが、お店でもこういったコートはよく扱われますか?

 

やっぱりトレンチとかステンカラーは、お店には絶対に欠かせないアイテムですよね。ライニングのデザインも面白いから、あえて裏からプレスしてもらって、裏返しでお店に出したりしています。そうすると袖のナイロンとライニングの見え方に個性があって、並んでいるだけでも目を惹くんです。良い洋服って、裏地までカッコいいんですよね。

Q: シンプルで普遍的なデザインですが、やっぱり存在感に華がありますよね。実際に着た感じの印象はどうですか?

 

アクアスキュータムのコートは特に、袖を通した瞬間に良いものってわかりますよ。最近はみんなオーバーサイズのユルい服ばかりで、いろんなディテールが簡略化されたり省略されているから、久しぶりに羽織った時に少しタイトに感じるかもしれないけど、1900年代初頭のフィッティングって、本当にこんな感じなんです。当時は軍服も大量生産じゃないから、将校なんかはテイラーに行ってこういうコートを仕立ててもらっていたんですよね。しかももともと戦争に勝つ為、生き抜く為に作られたものだから、細かい部分までものすごく丁寧に作り込まれています。現代ではお洒落として着るものですが、そういったアイデンティティはしっかりと受け継がれていることがわかります。

Q: 内田さんご自身はどういった着こなしが好みですか?

 

本当は大久保さんやその前の馬場圭介さんみたいに、王道のトレンチコートをバシッとカッコ良く着こなしたいんですけどね。以前、馬場さんを恵比寿駅でお見かけした時に、トレンチを上まできちっと締めて着ている姿がすごくカッコ良くて。でも僕のキャラだとなんだかしっくりこないから、こういうクラブチェックみたいなヒネリがあった方が良いかな。今はスーツも着ますが、やっぱりもともとライダースとかスカジャンとか、丈の短いものばかり着てきたカジュアル育ちの人間なので、長いコートを大人っぽく着こなすのは今でも憧れなんです。今日は’60年代のイギリスをイメージして、玉虫色のテーパードパンツとラバーソールに合わせてみました。僕は似合わないけど、若い人たちだったらフレアとかベルボトムに合わせてもカッコいいと思いますよ。

ヴィンテージのアメカジから、ヨーロッパのモードやアフリカンクラフトまで、古今東西、世界中から集めてきた“面白いもの”を独自に編集し、中目黒からまた世界へと発信し続けている内田さん。その自由で軽快な哲学は、自身のスタイルでも体現されている

ヴィンテージショップオーナー

内田 斉

うちだ・ひとし 1969年、群馬県生まれ。原宿の老舗古着店・サンタモニカで18年間勤務。独立後、2005年にJANTIQUESを中目黒にオープン。古着を軸に、家具や雑貨などを幅広くラインナップする新しいスタイルで、国内外のファッションシーンに多大な影響を与える。’19年、地元・群馬県高崎市に2号店となるJANTIQUES内田商店をオープン。’20年よりJANTIQUESのECもスタートさせる。Instagram @jantiques.nakameguro, @jantiques_uchidasyouten

CONTINUE