創造のモチベーションは罪悪感

Text: KEISUKE KAGIWADA
Photo: NAOKI USUDA

アクアスキュータムがブランド誕生から170周年を迎えた今、改めて「続けること」と「続くこと」を考えるインタビュー連載。時代の変化に寄り添いながらも、確固たるアイデンティティを守り、育んできたアクアスキュータム。その価値観に共鳴するクリエイターたちに、「続けること」と「続くこと」の意味を数珠繋ぎに問いかけていきます。今回、アーティストの片岡亮介さんからバトンを受け取ったのは、音楽ソロプロジェクト「ZOMBIE-CHANG(ゾンビーチャング)」の活動で知られるメイリンさん。「何かを作ってないと罪悪感に駆られる」と語るメイリンさんに、もの作りとの向き合い方について語ってもらいました。

Q: 片岡亮介さんとはお知り合いになられて長いんですか?

 

知り合い歴はかなり長いですが、よく会うようになったのはここ最近ですね。引きこもりがちな私を、食事などに呼び出してくれるんです。話す内容は他愛ないことばかりですが、片岡さんはとにかくトーク技術が素晴らしいので(笑)。いつも楽しませてもらっています。

 

Q: そんな片岡さんは、幼稚園に入る前にひたすら迷路を描いていたと言っていました。メイリンさんも、幼少期に現在の活動に繋がるようなことをされていた記憶はありますか?

 

何だろう……。子供の頃、英会話教室に通っていて、授業内容を毎回録音しなきゃいけなかったんですよ。その時に使っていたレコーダーで、適当に歌を録音したりはしていましたね。

Q: その頃から宅録をされていたんですね。自覚的に音楽を聴くようになるのはその後ですか?

 

そうですね。中学生の頃かな。実家にあるMacでずっとネットサーフィンをしていたんですよ。それでいろんな音楽を知って、聴くようになった感じです。特に聴いていたのは、カジュアリティーズとかラモーンズとか、USのパンクでしたね。反骨精神に共感することが多かったですね。BPMが早いのも、今のスタイルに影響を与えていると思います。パンクというとUKのイメージがありますが、逆にセックス・ピストルズとかはあんまり通っていないんですよ。UKのブランドのインタビューなのに、すみません……。

 

Q: いえいえ(笑)。当時、音楽を作ったりもしていたんですか?

 

Macにプリセットされた音楽制作ソフトで遊んだりしていました。今考えると、プラグインや機材がグレードアップしたのと、少しずつトラックの作り方がわかってきただけで、あの頃からやっていることはほとんど変わっていませんね。

Q: ZOMBIE-CHANGという名義は、どのタイミングで生まれたんですか?

 

20歳になるちょっと前ぐらいですかね。当時、髪の毛を素手で染めていて、手がめちゃくちゃ汚れていたんですよ。そしたら、その手を見た109の店員さんに「ゾンビみたいだね」って言われて(笑)。だったら、ゾンビって言葉を使おうかなと。CHANGを付けたのは、単純に字面が良かったからです。むしろ、ゾンビにまつわるアートワークはNGにしています(笑)。

メイリンさんが選んだのは、この企画では初登場となる短いタイプのトレンチコート。「最近、レイヤードするのが好きなんです。短いタイプだとロングスカートと合うかなと思って選んでみました」

Q: その後、いろいろなタイプの楽曲を手がけられていますが、ご自身の作る音楽のジャンルはどうとらえていますか?

 

あんまりジャンルのことを考えたことがないんですよ。最初はパソコンだけで作っていて、途中バンドになった時もあるけど、今はまたパソコンだけに戻っていて。昔のものは自分で聴いても「今と全然違うな」って思いますから。人間って細胞レベルで言えば、常にめちゃくちゃ変わり続けるじゃないですか。私の音楽もそれに似ているかもしれません。だから、ジャンルはあまり意識せず、変わり続ける自分が、その都度面白いと思うものを、ZOMBIE-CHANGとして表現できれば良いのかなって。今はガバっていうハードコアテクノみたいなものを作っているけど、もしかしたら今後ポエトリーリーディングをやる可能性だってあるかもしれない。だけど、ZOMBIE-CHANGって名義だけは絶対に変わらないという。

 

Q: つまり、メイリンさんの作る音楽は、ZOMBIE-CHANGというジャンルなのかもしれませんね。

 

どうですかね。同じようなジャンルを続けたほうが、聴く人にはわかりやすいし、そっちのほうが売れるんじゃないかとも思うんですよ。だけど、自分にはそれができなくて。「あ、これ面白い」って思ったら、そっちしか見えなくなってしまうんです。だから、それに従うというか、導かれていく感じです。

Q: その常に変化を求める感じっていうのは、ライフスタイルにも当てはまると思いますか? 例えば、ファッションや趣味がころころ変わるとか……。

 

当てはまると思います。最近はそんなにないですけど、昔はよくファッションを変えていたので。でも、どっちかって言うと、興味持ったことは全部やりたくなってしまう感じですね。

 

Q: 熱しやすく冷めやすいタイプなんですか?

 

そうですね。ただ、冷めた後にまた熱くなることが多い気がします。例えば、趣味の編み物なんかも、1回すごくハマって、ちょっとやめていた時期があって、今また再熱しているので。

Q: それは音楽制作が行き詰まった時にやるんですか?

 

それはないですね。目の前にあるタスクをクリアしないと次に進めないタイプなんですよ。だから、音楽やライブの制作に行き詰まったとしても、向き合い続けます。編み物とかは、そういうものが終わった時にやる感じですね。

 

Q: でも、音楽なりライブの制作が終わったら、休みたくなるものなんじゃないですか?

 

何かを作り出してないと、罪悪感を感じるんですよ。その点、この世の中に何かを作り出せる編み物は、罪悪感のない遊びというか。

Q: ストイックですね。ZOMBIE-CHANGのウェブサイトには、メイリンさんのアートワークもたくさんアップされていますが、あれも罪悪感に駆られた結果なんでしょうか。

 

そうだと思います。物販なんかも、デザインから工場への発注まで、すべて自分でやっているんです。ZOMBIE-CHANGが定期的に物販を出せるのは、謎の罪悪感に駆り立てられているからかもしれません。

 

Q: でも、音楽やライブを制作する際、その都度出し切っているわけじゃないですか。それでも気付くとクリエイティビティが湧いてくるということなんですか?

 

「これやりたいな」ってものが、自分のなかから不意に出てくる瞬間があるんです。例えば、道を歩いて、 「ありきたりだな」って思う何かを見つけたとしますよね。そうすると「じゃあ、自分はそれをひねってみよう。ぐちゃぐちゃにしてやろう」っていうモチベーションが生まれるというか。少し前に、横に伸ばした私の顔をプリントしたタオルを作ったんですね。SNSに写真をアップする時、スリムに見せる為に縦に縮める手法があるんですけど、それに違和感があったので、「横に伸ばしちゃえ」って作ってみたものなんです。

Q: なるほど、日常的な違和感をアートに昇華しているわけですね。

 

かもしれないですね。あと、編み物で言えば、新しい編み方を覚えて、それをどう応用していくか考えるのも楽しいです。それは音楽についても言えて、新しいプラグインを買ったら、必要以上に使う。使い過ぎて、どうしようってなることもあるんですけど(笑)。

 

Q: 日常的な発見と、新しい技術がクロスオーバーする場所に、何かが生まれるというわけですね。ほかに、罪悪感を紛らわせる為にやっていることはあるんですか?

 

何をしているかなぁ……。あ、料理は毎日しています。自分の食べたいものが作れるし、安上がりなので(笑)。高いものが好きじゃないんですよ。編み物も、少し前に鍵編みのセーターが流行って、「自分で作れるんじゃないか?」と思って始めたので。

メイリンさんがときどき訪れるという、代官山の喫茶店・カフェ フォリオで撮影。「基本的に、外に出るのが苦手なんですけど、定期的に『冒険しなきゃな』ってタイミングがあるので、そういう時に来て、ぼーっとしたり、編み物をしたりしています」

Q: 先ほど、中学生の頃はパンク音楽を聴いていたと言っていましたけど、そういうライフスタイルはパンクのDIY精神に近いですね。クリエイティブな活動という点でいうと、メイリンさんはモデルも積極的にやられている印象です。その活動はご自身のなかでどういう位置付けなんですか?

 

今までのものとは全く別ですね。もともと見た目に自信があるわけではなかったので、モデルをやりたいと思ったことはなかったんですよ。だけど、ZOMBIE-CHANGを名乗り始めると同時くらいで、撮影によく呼んでいただけるようになって。当時は、お金もなく、バイトと掛け持ちしていたんですよ。モデルはお金ももらえるし、前に出る仕事だから音楽との共通点もあるなと思ってやり始めたんです。そしたら、可愛い人はたくさんいるし、メイクさんとかカメラマンさんといった技術者とも出会える素晴らしい現場だと気付いて。それでどんどんやるようになりました。

 

Q: 音楽活動とモデルは全然別と言われましたが、どちらも人前で表現するという意味では似ているような気もします。ご自身のなかでは、何が一番違うと思いますか?

 

モデルは初めて会った人と協調性を持って作り上げる仕事だと思っていて。だけど、音楽はすべてを自分で考えなきゃいけないというところですかね。みんなでひとつの作品を作る仕事としてのモデルとは違い、音楽となると自分の思ったようにやらなきゃ気が済まないんです。でも、音楽だけやっていると、変に“個の人”になってしまいかねないので、モデルをやることでバランスを取っているのかもしれません。

Q: モデル活動が、音楽活動にクリエイティブな影響を与えることはあると思いますか?

 

私のなかでは、もう完全に分離しています。ただ、モデルの時にやってもらったメイクを自分でも試してみるみたいなことはあるし、いろんなクリエイションを実際に見たり体験したりする機会は、ミュージシャンだけをやっていたらなかなかないので、ありがたいですね。

 

Q: 以前、モデル活動を休止した時期があったかと思います。また再開した理由は何だったのでしょうか?

 

休止したのは、音楽活動とのバランスが取れなくなったからなんです。過度な食事制限で頭が回らず、制作ができなくなってしまって。ただ、ひとつのことだけに打ち込むのって面白くないし、視野が狭くなるんですよね。新しい人と出会う機会も少なくなりますし。だから、再開したんです。それにモデルをしていると、仕事という名目で外に出られるじゃないですか。引きこもっていると「外に出なきゃな」と思いつつ、ただ飲みに行ったりするだけだと、「あー、お金だけ使っちゃったな」って、またここでも罪悪感があるんですよ。モデル活動は、現場で刺激ももらえるし、感情も変わるから、人間としてのバランスを取る上でちょうど良いんだと思います。

Q: 音楽でもモデルでも、仕事するにあたっての準備はするほうですか?

 

ライブをするとなったら、2週間から少なくとも1週間前からとことん準備をしないと恐いです。失敗する悪夢をすごい見るんで。モデルに関しても、「明日撮影しましょう」って言われても、できないと思いますね。日頃から食事には気をつけていますけど、撮影となったら、ライブと同じく1、2週間前から普段以上に食事制限をしているので。

 

Q: やっぱり何をやるのにもストイックな人なんですね。これまでミュージシャンを辞めたいと思ったことはありますか?

 

3ヵ月に1回は「もうやりたくなーい!」って思っています(笑)。主にライブの前ですね。毎回「できないかも」っていうプレッシャーがあるし、練習もきついので。そこから解放されたいなとは思います。ただ、音楽を作ることに関しては、辞めたいと思ったことはないんですけど。

Q: では、それでも尚ライブ活動を続ける理由は何なのでしょう?

 

それも、「やらなきゃな」っていう罪悪感(笑)。音楽を作る限りは、ひとりでも多くの人に届いて欲しい。それを諦めきれないって思いながら、やっていますね。

今回、裏返して着るというまさに“裏技”を披露してくれたメイリンさん。「トレンチを着る時は、結構裏返すんです。襟がパリッと立つし、裏地のチェック柄や縫い目が機械の内側みたいでカッコいいなと」

アーティスト

メイリン

ソロプロジェクト・ZOMBIE-CHANG名義で活動するミュージシャン。作詞作曲、ライブパフォーマンス、ボーカルなどすべてをひとりで行っている。2016年、ファストアルバム『ZOMBIE-CHANGE』をリリースして以降、国内外でライブを決行。最新作は2022年に発表した『STRESS de STRESS』。音楽プロジェクト以外にも、モデル、執筆業などでも活動中。2019年には、映画『ふたり』で俳優デビューを果たした。Instagram @meirin_zzz

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