選択肢を持つことが、続ける為に必要なこと

Text: MOE NISHIYAMA
Photo: JUN OKADA(BE NATURAL)

アクアスキュータムが創業から170周年を迎え、「続けること」と「続くこと」を考えるインタビュー連載。真摯に歴史ある物づくりに向き合う姿勢を継続し、普遍的でありながら時代の変化をとらえた視座や価値観を探求してきたアクアスキュータム。ブランドの名作であり、象徴でもあるトレンチコートとともに今回お話を伺うのは、時代を感じさせない独自のユーモアと、シュールな世界観で多くのアーティストやファッションブランドのディレクションを手がけるアーティスト、とんだ林蘭さん。漫画家を志していた時代から現在に至るまで、多様な表現に果敢に挑戦しながらアイデンティティを築く彼女の活動の原点から、「続けること」を紐解きます。

Q: 作家からアートディレクションまで、とんだ林さんのクリエーションは多岐に渡ります。改めてご自身の活動の原点について教えてください。

 

作家活動を始めるにあたって「とんだ林蘭」という名前を付けてもらってから今年でちょうど10年が経ちます。文化服装学院のスタイリスト科を卒業してからは販売員やOLをしていたのですが、将来について真剣に考えるようになったのは25歳の頃。さくらももこさんの『ちびまる子ちゃん』が好きで、子供の頃から漠然と漫画家になりたいと思っていたのですが、OLをしながら、やはり何かに熱中できている人が羨ましいなと。自分にできることはなんだろうと考えながら落書きをしていた時、ふとなれるかどうかはわからないけれど、一番やりたい職業は漫画家だと自覚しました。漫画家さんはペンネームで活動している人も多いので、別人格に変身するような感覚で活動できたらと、名前を付けていただいたんです。ただ漫画の専門的な勉強をしたことがなかったので、自分が思い描いている通りに描けない。描いた漫画を編集部に持ち込んだりしてみたものの、『ちびまる子ちゃん』のような誰にでも描けそうと思わせる作風のものも、実はとっても難しいんですよね。背景の描写力やストーリーの組み立てなど、イラストを描くのとは全く違ったベクトルの才能がいるのだと気が付いて、早々に挫折しました。そこから切り替えて、コラージュや写真、絵の具を使った表現などを試すようになり、熱中できることが増えていった感覚があります。

Q: その後イラストやコラージュ、映像、インスタレーションなど多様な手法を続けられていますが、作品制作やアートディレクションなどではどのように使い分けているのでしょうか?

 

イラストを描く時は、何もないところ、自分の内側から浮かんだものを描いているのですが、コラージュは自分では描けないもの、思い浮かばないものも含め、集めたパーツから自分の好きなものがあとからわかるところがあります。コラージュで試したことがイラストにも活かされたり、それぞれの手法が作用し合っていることも多いと思います。10年間、イラスト、コラージュ、写真、映像、全部続けていますが、どれかひとつだけに絞るのは結構辛くなるタイプ。ひとつの道を極めていくスタイルに憧れながらも、自分には向いていない。見方によっては中途半端に活動していると思われるかもしれないのですが、飽き性なので、その時々に自分の興味があるもの、熱中できるものを選べる選択肢があることで今も続けられているのかなと思います。

Q: コラージュの手法や考え方は、とんだ林さんの個人の作品制作だけでなく、複数のチームで作り上げていくアートディレクションのお仕事にも通じていると感じます。どのように今のスタイルを築いていったのでしょうか?

 

初めて広告のディレクションを手がけたのはZoffの広告。当時は制作手法の選択肢をあまり持っていなかったので、平面のコラージュを考えていたのですが、ご一緒したカメラマンの花房 遼さんから「舞台のセットを作れる予算があるから、コラージュを実写にするのはどう?」と。確かにそれは面白そうだと思いチャレンジしました。その一件で表現の選択肢が広がりましたね。

私のラフは白黒の落書きのようなものなのですが、それをもとにスタッフとイメージをつくっていくので、きちんと共有しないととっ散らかってしまう。今は直接言わなくても感覚をわかってくれるスタッフも多いのですが、最初の頃は擬音語で感覚を伝えることもあったりして、あまりうまく説明できていなかったと思います。でも、だからこそ自分が想像している以上のものに仕上がることもある。コラージュ作品はひとりで作るのが基本なので想像の範疇のものになってしまうのですが、人と一緒に制作すると、みなさんが面白がってどうとらえたら良いかを考えて提案してくれるのが楽しい。作り方もコラージュ的なのかもしれません。

Q: 木村カエラ、東京スカパラダイスオーケストラ、ASOBOiSM、あいみょん、MIHARA YASUHIROやAnother Edition、PUBLIC TOKYOなど、分野を横断してお仕事をされていると思います。コラボレーションをされる際、大切にされていることはありますか?

 

あまり知らなかったアーティストの方とご一緒する時や、知っていてもどのような経緯でお声がけくださったのかを聞く為に、取りかかる前に必ず一度はお会いしてお話しするようにしています。特にアイドルの方とのお仕事では、ファンの方もビジュアルを細かく見る世界。あまり媚び過ぎても仕方ないのですが、見る側の目も肥えているので、反応はいつも気になります。まずはお仕事を依頼してくれた本人に喜んでもらうことが大前提で、ファンの方にも喜んでもらえると尚嬉しい。自分なりにそのアーティストやブランドを良く見せたいという思いがあるので、予算が少ない場合でも、一生懸命取り組んでいる姿勢はわかってもらえていると思います。そこは結構売りというか、予算がある時もない時もベストを尽くしますし、その辺りの考え方が似ているスタッフを集めるようにもしています。

Q: 最近ではスタイリストの相澤 樹さんや二宮ちえさんなど文化服装学院出身の方とご一緒されることも多いのかなと思います。制作チームのスタッフの方たちは付き合いの長い方や繋がりのある方が多いのでしょうか?

 

相澤 樹さんはもともと自分が文化に在学中に講義に来てくれたことがあって、とても面白かったのでよく覚えていて。そういう方と一緒にお仕事できるのは嬉しいです。二宮ちえさんは昔、古着屋で展示をしていた時に来てくれてSNSで繋がっていたのですが、お仕事をするようになってからは5年くらい。私自身アートディレクションの勉強をしてきたわけでもないので、始めの頃は周りにスタイリストの知り合いもいなくて、スタッフの選択肢もほとんどない状態。なので、自分が取材や被写体で呼ばれた時のヘアメイクさんやカメラマンさんが素敵な方だったら、今度自分がディレクションをする時にお願いできますかとお声がけしたりすることも多いです。作品だけ見てお仕事を依頼することは滅多になくて、一つひとつの出逢いや繋がりを大切にしたいと考えています。

Q: とんだ林さんの作品やディレクションされるビジュアルでは、ダークな要素とユーモアが相まった独特の世界観が印象的だと感じます。軸となっている感覚や影響を受けられてきたものなどは何かあるのでしょうか?

 

さくらももこさんの描く漫画やヤン・シュヴァンクマイエルの映像作品のようなシュールで少し不気味な世界観が好きなんですよね。普段見ていて影響を受けているとしたら『ちびまる子ちゃん』や『サザエさん』、『名探偵コナン』。この5年くらいは離れていたんですけど、最近は毎日アニメの『ちびまる子ちゃん』ばかり見ています。普遍的なのに、感動に寄せない大人のエッセイのような感覚で楽しめる。永沢くんのお母さんが入院して、みんなで「元気になってね」とお見舞いをしてお花をあげる回があるのですが、みんな感動して大泣きしてしまうシーンがあるんです。でも途中でみんな「なんでこんなに泣いてるんだっけ? あんなに泣くことなかったのに」と冷静になってしまうところがとても好きで。よく自分の作風はシュールだと言われるのですが、子供の頃からシュールな感覚に触れ合ってきたことが、作風に影響を与えてるのかもしれないです。

今回の撮影場所は、母校である文化服装学院。在学中に講義を聞く側だったとんだ林さんも、同じく卒業生で先輩にあたるスタイリスト・相澤 樹さんとともに講義したことも。SNSだけで繋がる同級生のプロップスタイリストがいたりと、最近になって文化出身の人に会うことが増えているそう

Q: 『ちびまる子ちゃん』や『サザエさん』、『名探偵コナン』は放映された当初から時代が大きく変わっているはずなのに、ロングセラーでテレビ放送も映画上映もされていることもすごいですよね。そういった続いているものに惹かれるのでしょうか?

 

ずっと見ていられるってすごいなと。なんでこんなに飽きないのか、テンポ感なのか特に何も起こらないからなのか。でも『サザエさん』が50周年の時、初期のものと最新のものとで比べてみたら絵のタッチが全く異なっていて、時代感が微妙に変化していました。気が付かないうちにちょっとずつ変化していたんだなと。コナンもLINEやネットがあまり普及していない時代に描かれた漫画なので、ボスの電話番号を手に入れることが話のキーになっていましたが、いつの間にかその設定も出てこなくなっていたと思います。「ピポパポ」というボタンを今は誰も使っていない。それで良いというか、よく見ると何も変わっていないようで少しずつ変化しているから自然に見られるのかもしれません。

Q: とんだ林さんのお仕事や作品は形や表現手法は毎回異なりますが、普遍的な世界観が根底にあったりするのでしょうか?

 

ディレクションする時は、時代感が出過ぎる衣装はあまり選ばないです。今可愛いと思うアイテムも、一周回って10年後にはまた可愛いとなる可能性もありますが、3年後は古いと感じてしまうかもしれない。星 新一のSF小説が好きなんですが、未来の電子機器は出てきても、いつの時代か特定される名詞があまり書かれていなかったと思います。今まで意識はしていなかったのですが、言われてみると今っぽ過ぎない、時代をそこまで感じさせないものを選ぶようにしているかもしれません。シンプルにいつ見ても良いと思えるものでないと、自分がその作品を嫌いになってしまう瞬間が出てきてしまうと思うので。

何もないところから世界観を立ち上げていく作業は、スタッフのアイデアがコラージュされていくようで面白いのだそう。意識しているのは時代を感じさせない世界観とユーモア。普遍的なトレンチコートは、海外のオンラインストアで購入した個性的なアイテムを合わせて。スタイリング次第で着るたびに表情の変化が楽しめる

Q: ご自身の服も独自のセンスでスタイリングされていると思うのですが、どのように選ばれているか気になります。

 

好きなブランドはたくさんあるのですが、これも可愛いしこれも可愛いと浮気するタイプ。絶対普段着ないだろうなという攻めたアイテムも、一度買ってみて、使えなかったら作品で使えば良いというちょっとした保険はありますね。トレンチコートも頻繁に着るわけではないので、いつもと少し違った印象で何を合わせようか考えるのが楽しいです。しっかりした作りで飽きのこないデザインだと、攻めたアイテムも合わせたくなります。普段服の買い物は日本では手に入らない海外のブランドを扱っているオンラインストアで見ることが圧倒的に多いです。思ってもみなかったものに出合えたりするのでお店も好きなんですが、オンラインでいろんな服のなかからベストを探すぞ!、と比較検討しながらディグする感覚が楽しい。一度見始めると6時間くらい、すごい物量を見続けてしまうんですよ。お店だと6時間も悩めないですし、お店もそんなに回れないので、服が届くと「やっと届いた!」という気持ちになります。それくらい、服が好きなんだと思います。

Q: アーティストやファッションブランドのディレクションのみならず、店舗の空間ディレクションを手がけられたりなど、表現のフィールドも広がっていると思います。空間を手がけられる時も服をスタイリングするような感覚やコラージュに近いものがあるのでしょうか?

 

自分が見ていて一番テンションの上がる表現が建築や空間のディスプレイ。色使いや配置がカッコいいものを見ると興奮します。今家の隣の建物を事務所として借りていて、家は夫もいるので自分の世界観を全開にしてしまうと嫌だろうなと思い折り合いをつけているのですが、事務所の部屋のひとつはカーペットを紫にしたりピンクのソファで構成しています。New Balanceの周年のビジュアルを去年やらせていただいて、4階建ての建物をビジュアルごとの空間にしていくというお仕事でしたが、内装の方や空間を作るプロフェッショナルの方たちに入ってもらうかたちで取り組みました。空間のディレクションも、今後さらに挑戦したい分野です。

Q: 作家活動を始められて10年。今までとこれからと、続いていくこと、続けていく為のコツなどあれば教えてください。

 

作家活動を始めたばかりの頃は自信がなかったこともあって、自分が作ったものをすぐに捨ててしまっていたんですよ。ただ、人と作るようになると自分ひとりの作品ではないので、とても良いと思えるようになって。昔は嫌だなと思っていた作品も、見返すと今は描けないものを描いていたんだなと思えるようになりました。もし、漫画家を諦めずに10年続けていたら、素晴らしい作品を描いていたかもしれないし、全然ダメだったかもしれない。ひとつ判断基準としてあるのは心が辛いか辛くないかかなと。当時は、本当はこういう絵が描きたいのにそれを表現できない、自分がイメージしているものが作れないことがすごくストレスで。気持ちが辛いと何もできなくなってしまうので、執着しないということはひとつあるかもしれないです。続けないことが、続けていくことに繋がっているのかもしれません。

魅力を感じる人に出会うと、今まで見たことのないその人の一面や世界観を見てみたいと思うとか。それを作り上げるには、ひとりより、アイデアが飛び出てくるスタッフとの取り組みのほうが有効だと言うとんだ林さん。次に個展を開くとしたら、チームで作った制作物を展示したいと考えている

アーティスト

とんだ林蘭

とんだばやし・らん 1987年生まれ。文化服装学院スタイリスト科卒業。コラージュ、イラスト、インスタレーション、映像など幅広い手法を用いてシュールでチャーミングな中毒性のある独自の世界観を創り上げる。名付け親であるレキシの池田貴史をはじめ、木村カエラ、東京スカパラダイスオーケストラ、ASOBOiSM、あいみょんなどの音楽アーティストや、MIHARA YASUHIROやAnother Editionなどのファッションブランドともコラボレーションするなど、幅広い世代の様々な分野から支持を得ている。Instagram @tondabayashiran

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