醸造所のタップルームや直営ビアパブで味わう、
ロンドンの最新クラフトビール
ーThe Must-Visit Taproom and Beer Pub in LONDONー

Text: YUKA HASEGAWA
Photo: HARUKO TOMIOKA

醸造家が丹精を込めて作るクラフトビールが、今世界各国で大きな注目を集めています。米西海岸に始まり瞬く間に世界中に広がったクラフトビールブーム。とはいえ、ブームの起爆剤となったIPAは、18世紀末、英国からインドにビールを運ぶ際に、腐敗防止のためにホップを大量に使用したことに由来します。ビール醸造の長い歴史を持つ英国、特にロンドンでは昨今、新進のマイクロブリュワリー(小規模醸造所)が台頭し話題になっています。この街が誇る個性的なビールを満喫したいのであれば、“タップルーム”と呼ばれる醸造所内に併設された簡易バースペースや、醸造所に近隣する直営ビアパブへ。テムズ川沿いの古びた倉庫、シャビーな高架下、ファンキーな駐車場と、ユニークなスペースに出現するのもマイクロブリュワリーならでは醍醐味。醸造用タンクを身近に感じながら、作り手の見える出来立てのビールを片手に、ロンドンの最新クラフトビールシーンを体感ください。

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テムズ川の景観を臨みながら、フレッシュなビールが満喫できるブリュワリー/Brew By Numbers Morden Wharf Brewery

 「ブリュー バイ ナンバーズ」は、その名の通り、ビールの名前を数字でネーミングしているユニークなブリュワリー。ロンドンのバーモンジーで2011年に創業して以来、英国内外の古典的なビールをモダンに再現したり、斬新なホップ使いや熟成など、様々な醸造技術を駆使しており、350種を超える個性豊かな味わいには高い評価を得ています。2021年には、ロンドン南東部・グリニッジのウォーターフロントに新しい醸造所を構え、醸造所内のタップルームとテムズ川を展望できるテラス席を持つ「ブリュー バイ ナンバーズ モダン ワーフ ブリュワリー」をオープン。週末にはDJも入り、ビアフェスのような雰囲気の中、フレッシュなビールを楽しむ若いロンドナーたちで盛り上がりをみせています。「アロマに富んだアメリカ産のホップをふんだんに使ったIPA系は人気商品ですが、ラガーは英国産のモルトやホップを使い、英国らしい穏やかな苦味とマイルドな味わいを持ったクラフトビールとして定評があります」と語るのは、責任者のジョシュアさん。今年の冬には、日本のマイクロブリュワリーとコラボして、英国の伝統的なクラフトビールを作る計画が進行中だそうです。

上:テラス席からは、テムズ川の対岸に広がる、ロンドンの再開発地域・カナリーワーフの超高層ビル街が臨めます 左上:ウォーターフロントの古い倉庫を改装して醸造所に 右上:左から、すっきりした味わいで人気の銘柄「32 ピルスナー」。「100 BA インペリアル バルティック ポーター」はバーボン樽で熟成させた、甘みのあるデザート用のビールで、アルコール度数は11%と高め。英国で人気のあるトロピカル味のアイスクリーム、ソレロから発想を得たほんのり酸味があるサワービールの「19 ソレロ グース」 左下:テラス席の一角には、石窯のあるピザの屋台があり、いつも行列ができるほど人気 右下:醸造所スペースのすぐ隣にある、タップルーム。そこに一歩足を踏み入れると、醸造所から流れてくるかすかなモルトの香りが、ビール通の心をくすぐります

Brew By Numbers Morden Wharf Brewery

住所_ Southern Warehouse, Morden Wharf Rord, London

営業時間_水17:00〜22:00、木・金15:00〜22:00、土12:00〜22:00、日12:00〜20:00

定休日_月・火曜

Instagram_ @brewbynumbers

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ビール愛好家を唸らせる、英国クラフトビールブームのパイオニア/The Kernel Taproom Arch 7

 ロンドンブリッジ駅からほど近いバーモンジー地区の高架下は、“バーモンジー ビア マイル”と称され、20近くのマイクロブリュワリーが点在しています。今でこそ、クラフトビールラバーの巡礼地として知られてますが、以前は殺伐とした倉庫街でした。2009年、「ザ カーネル ブリュワリー」がこのエリアに小さな醸造所を構えて以来、次々と気鋭の醸造家が集まってきたのが、“バーモンジー ビア マイル”の始まりと言われています。クラフトビールブームの元祖として、国内外から絶大なリスペクトを集めている「ザ カーネル ブリュワリー」のベストセラーは、醸造所での一次発酵後に樽詰めされ、その中で二次発酵させるという英国の伝統的な技術を用いた“カスクビール”に発想を得た「テーブル ビアー」。アルコール度数3%でありながら、爽やかなホップが効いた深みのある味わいを持つペールエールで、同ブリュワリーの高度な醸造技術が体現されています。醸造所からすぐの場所にあり、出来たてのドラフトビールが日替わりでラインアップされる「ザ カーネル タップルーム アーチ セブン」では、1/3(約188ml)・1/2(284ml)・2/3(約375ml)・1(568ml)パイントと4種類のグラスがあるので、様々なビールを気軽に楽しむことができます。

上:アーチ型の天井や、年季の入ったレンガ作りのエントランスなど、ユニークかつ独特の雰囲気を醸し出している、高架下スペースを改装した「ザ カーネル タップルーム アーチ セブン」 左上:醸造所内でタンクのチェックをする、ヘッドブリュワーのベンさん 右上:左から、 低アルコールビールでありながら完成された味わいで、クラフトビール好きを魅了する「テーブル ビアー」。1800年代のレシピをモダンに改良した黒ビール「エクスポート スタウト ロンドン 1890」。ブランドの看板、シトラス系とフルーティな香りが特徴のホップ、シトラを使用した「ペールエール」 左下:ブリュワリーの創業者であるイヴィンさんは、クラフトビール業界に参入する以前は、英国有数のチーズ専門店でキャリアを築いていた人物。タップルームで、ビールのおつまみにアルチザンチーズがサーブされるのもうなずけます 右下:タップルーム内で販売されている、種類豊富な瓶ビール。缶を採用するクラフトビールブランドが大半ですが、研ぎ澄まされたシンプルなラベル、瓶詰めビールが「ザ カーネル」のトレードマークとなっています

The Kernel Taproom Arch 7

住所_ Arch 7 Dockley Road Industrial Estate, London

営業時間_水〜金15:00〜22:00、土11:00〜21:00、日・バンクホリデーの月12:00〜20:00

定休日_月・火曜

Instagram_ @thekernelarch7

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地元の人々にこよなく愛されている、東ロンドンのネイバーフッドブリュワリー/40FT Brewery

 ヒップなロンドナーに人気のエリア、東ロンドンにあるダルストン。大通りから一本裏手へ行くとグラフィティアートが点在する一角があり、そこに居を構えている「フォーティフット ブリュワリー」。もともと、カメラマンとして第一線で活躍するスティーブさんが、自宅で友人とビールの自家醸造を始め、その後、20FT(約6m)のコンテナ2台内を改装してビール製造を開始。その質の高さが口コミで評判になり、2015年に商業的なマイクロブリュワリーとしてスタートしたそう。ネイバーフッドブリュワリーを標榜し、「誰でも気軽に足を運べる、ダルストン地区のリビングルーム的な存在を目指しています。レストラン業界では昨今、“地産地消”が叫ばれていますが、ビールも同様。同じ敷地で醸造されたビールを飲むことは、ビール輸送におけるカーボンフットプリントもゼロ。さらに地域のビジネスを支え、コミュニティの活性化に貢献する」とスティーブさん。ビールの名前も、「ダルストン サインライズ」、「ネイバーフッドIPA」などと地域に根付いたネーミングが好評。特に週末のタップルームのテラス席は、クラフトビール好きのロンドンナーがこぞって訪れ、夜遅くまで賑わいをみせています。

上:コンテナのタップルーム前に広がる、気持ちのいいテラス席。東ロンドンに住む常連客たちが集い、コミュニティスピリッツにあふれるスペースです 左上:タップルームのカウンターに並ぶ、フレンドリーかつ、ビールの知識に精通したスタッフたち。醸造所だけでなく、タップルームにもコンテナが使われています 右上:左から、アイルランドのギネスに代表される、ローストした大麦またはモルトを使用した黒ビール、スタウト系の「ディープ」。アイルランド人であるオーナーのスティーブさんのこだわりの黒ビール です。マンゴーとキャラメルのアロマが特徴の「ネイバーフッドIPA」。今クラフトビール業界で話題となっている、フルーティで苦味が少なく、濁りのあるへージー ペールエールの「ダルストン サインライズ」 左下:もともと駐車場だったスペースに、コンテナを置いてスタートしたブリュワリー。スティーブさんはその敷地内に、BBQレストラン「アクメ ファイヤー カルト」も経営。同店のシェフがタップルームに出向いて調理する、シイタケやスペインシシトウの串焼き、カツカレー、味付け卵など日本の居酒屋風の料理も人気です 右下:高さ約2.5m強のコンテナ内に、コンパクトに設置されたステンレス醸造用タンクで作業中のビール職人、フレディさん

40FT Brewery

住所_ Bootyard, Abbot Street, Carpark, London

営業時間_火・水・木17:00〜22:30 、金・土12:00〜23:30、日12:00〜20:00

定休日_月曜

Instagram_ @40ftbrewery

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ファンキーなラベルデザインと卓越したビールのクオリティで、ロンドンを席巻するブリュワリー/Beavertown Brewery, Beavertown Corner Pin

 今ロンドンで最も勢いのあるクラフトビールのブランド、「ビーバータウン」。伝説のロックバンド「レッド ツェッペリン」のヴォーカリスト、ロバート・プラントの息子、ローガン・プラントによって2011年に設立されたマイクロブリュワリーで、ファンキーなアートワークが施されたラベルデザインは一度見たら忘れられないほど。現在は、北ロンドンのトテナム地区に醸造所「ビーバータウン ブリュワリー」を構え、タップルームを併設していますが、ビーバータウンの独特の世界を満喫したいのであれば、そこから車で10分ほどの、同ブリュワリー直営のビアパブ「ビーバータウン コーナーピン」に足を運ぶのをおすすめします。醸造所から随時運ばれる出来たてのビールを味わえるだけでなく、店に一歩足を踏み入れると、タップのハンドル、壁に施されたアートワーク、ビアガーデンなど、そこここに「ビーバータウン」の独創的なワンダーランドを体験できることでしょう。また、バーボンやウィスキーなどの様々な樽でビールを熟成する斬新なプロジェクトを手がけていることでも知られ、次世代のクラフトビール造りへのパッションが感じられる注目のブリュワリーです。

上:ビアパブ「ビーバータウン コーナーピン」は、北ロンドンに拠点を置く英サッカープレミアリーグ、「トテナム ホットスパー」のスタジアムの目の前に位置。カラフルなアートワークが施されたバーカウンターはひと際目を惹きます 左上:醸造所「ビーバータウン ブリュワリー」のタップルームでも、「ビーバータウン コーナーピン」でも、ビールのタップのハンドルに凝ったフィギュアが付いており、見ているだけでも楽しい 右上:左から、7種類のホップをふんだんに使用した、アルコール度数4.3%のセッションIPA「ネックオイル」。トロピカルフルーツの華やかな香りが特徴の典型的なアメリカンIPA「ルプロイド」。切れ味と心地良い苦味を持つラガーの「ボーン」も人気。ビールの種類によって専用のグラスがあるのも、「ビーバータウン」ならではの小粋な演出です 左下:「ビーバータウン コーナーピン」では、バーガーやフィッシュ&チップスなどフードメニューも充実 右下:醸造所に併設されたタップルーム。壁際には、樽熟成プログラムで使用されている樽がずらりと並び、独特の雰囲気を醸して出しています

Beavertown Brewery,
Beavertown Corner Pin

Beavertown Brewery

住所_Unit 17, Lockwood Industrial Park, Mill Mead Rd, London

営業時間_金17:00〜22:00、土・日12:00〜21:00

定休日_月〜木曜

Instagram_ @bevertownbeer

 

Beavertown Corner Pin

住所_ 732 High Rd, London

営業時間_月〜水12:00〜22:00、木・金12:00〜23:00、土11:00〜23:00、 日11:00〜21:00

定休日_無休

Instagram_@beavertowncornerpin

編集者・ライター

長谷川ゆか

はせがわ・ゆか ロンドン在住の編集者・ライター。1991年渡英以来、人物インタビュー、ライフスタイル、食や旅など幅広いトピックスで、女性誌や機内誌、クレジットカード雑誌などに英国発の記事を寄稿。ここ数年は“サステナビリティ”をテーマに、リサーチ&執筆中。ロンドン郊外の森歩きとイングリッシュローズ、日本酒とクラフトジンをこよなく愛する。

Instagram_ @yukalondon

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