No_01
シアターが集まるコベントガーデン、
元裁判所内は舞台装置のような空間/NoMad London
ミュージカルや芝居を上演するシアターが集まるコベントガーデン。その中でも別格な存在がロイヤル・オペラハウスです。その正面にあるNoMad London(ノーマッド ロンドン)は、裁判所と警察署だった建物を増改築したホテルになります。1800年代の建築ですが、ここではNoMad の本拠地であるニューヨークの1920年代のスタイルを再現。ニューヨークのデザインスタジオ、ローマン&ウィリアムズがデザインした内観は、歴史ある建物を背景に創り上げた、オペラの舞台のように仕上げられています。
ロビーは古き良き書斎のようなインテリア。その奥にある3フロア吹き抜いたガラス張りのアトリウムは、中庭だった部分に増築されたものです。マーブル、マホガニー、レザー、ベルベッド、モヘアなど贅沢な素材を使い、アンティークの照明などを盛り込みながら、ラグジュアリーかつアットホームな居心地の良さが演出されています。
全91室ある客室も1920年風で統一され、猫足のバスタブや屏風、マーブルの暖炉がある部屋も。レストランはアトリウムにあるNoMad Restaurant をはじめ、イギリスのパブ風のSide Hustleなど。地下にあるアバンギャルドなカクテルで有名なCommon Decencyでは、DJやライブ演奏があります。舞台俳優になったような気分で泊まりたい、そんなホテルです。
上:「オペラハウススイート」。屏風の向こうには猫足のバスタブがある1920年代のニューヨークがテーマのインテリア 左上:元警察署の中庭は3フロア吹き抜いたアトリウムに。ここは朝食もサーブされるNoMad Restaurant。日曜のランチタイムはイギリス伝統のサンデーローストもあり 右上:エントランスを入ったところにあるロビー。ホテルというより、歴史のある邸宅のような印象。ダークウッドの手摺りやパネルに現代的なアートをコーディネート 左下:アトリウムの横にあるバー。ここのカクテルは知られた存在なので、楽しむなら地下のCommon Decencyへ 右下:貸し切りで利用できるプライベートダイニングルーム De Veil Room
NoMad London
No_02
キングスクロスの元区役所が、
クリエイターが集まるホテルに/The Standard London
旧貨物鉄道施設の再開発で注目されるキングスクロス地区。The Standard London(ザ スタンダード ロンドン)はそんなエリアのセントパンクラス駅正面にあるホテルです。1868年に開業したレンガ作りのネオゴシック様式の駅舎とは対照的に、ホテルの方は1970年代に建てられたコンクリートのモダニズム建築。元は区役所だった建物で、取り壊し案もありましたが、内外観とも1960~70年代をテーマにリノベーションされ、ホテルとして生まれ変わっています。
ホテルのロビーに当たるのは、区役所内の図書室を再現した「ライブラリーラウンジ」。録音収録ブースもあり、毎晩イベントも盛りだくさんなスペースです。近くにある有名美大、セントラル・セントマーチンズ出身で話題のファションデザイナー、ハリス・リードのスタジオもホテル内にあり、地元クリエイターが集まる場所としても知られています。
266室ある客室は各種あり、一番ベーシックな部屋は窓なしですが、観葉植物などを使ったウッド調のインテリアで、閉塞感はなし。増築された階にあるスイートになるとベランダ付きで、正面の駅舎を見ながら露天のタブに浸かることもできたり、楽しみ方もレベルアップします。
レストランは1階にIsolaとDouble Standardがあるほか、10階にはスペイン&メキシコ料理のDicimoが。外付けのカプセル型エスカレーターで10階まで直通で上がることができます。ルーフトップのバーも人気でホテルの前に行列ができることも。クリエイティブ系の人ならきっと大満足のホテルです。
上:1970年代に建てられた区役所内の図書室を再現した「ライブラリーラウンジ」。図書専門のスタッフがテーマごとに本をセレクトしています 左上:元はオフィスだった部屋を客室に。窓や天井などオリジナルの要素をいかし、家具や照明がコーディネートされています 右上:1階にあるレストランDouble Standard。朝食はこちらで 左下:窓のない客室「コージ コア」。バスルームとの仕切りにガラスを使用し、意外なまでに閉塞感はありません 右下:セントパンクラス駅に面した外観。元の建物の上に3フロアが増築されています。赤いカプセル型のエレベーターが外付けされ、最上階のレストランと連結
The Standard London
住所_10 Argyle Street, London, WC1H 8EG
https://www.standardhotels.com/london
Instagram_@thestandardlondon
No_03
元銀行のフロアに9つのレストラン、
メンバーズクラブが経営するホテル/The Ned
シティと呼ばれるロンドンの金融街。古くからロンドンの中心だった一帯には、イングランド銀行など歴史ある建物と、最新の高層ビルが軒を並べています。道行く人は足早で、経済を動かす心臓部という独特の躍動感があります。そんなエリアのど真ん中にあるThe Ned(ザ ネッド)は、1924年設計のミッドランド銀行を改築して2017年にオープンしたホテルです。
ホテル名は銀行を設計した建築家エドウィン・ラッチェンス(1869~1944)の通称「ネッド」にちなんだもの。一級保存指定になっている建物の内外観を修復しながら、一階には銀行カウンターなどを再利用した9つのレストランがあります。映画『007ゴールドフィンガー』(1964)の撮影にも使われた地下の金庫室は、プールやメンバー専用バーに生まれ変わっています。客室は全部で250室あり、こちらも1920~30年のインテリアが再現されています。
ここが通常のホテルと少し違う点は、創設と運営がグローバルに展開するメンバーズクラブ・Soho Houseであること。ホテルのゲストだけでなく、Ned’s Clubのメンバー専用ジムやルーフトップのプールやバーなどもあり、旅人だけでなく地元のメンバーもレギュラーに利用しています。泊まるだけではなく、遊べる演出が盛りだくさん。金融街のど真ん中で、古くて新しいスタイリッシュな異次元感が味わえます。
上:1階にある9つのレストランの一つ、Malibu Kitchen。元銀行の内観を生かしたインテリアですが、サーブされるのはカリフォルニア式のヘルシーフード 左上:建築家の名前を冠した「ラッチェンズ スイート」。1920年代の古き良きラグジュアリーが再現されています 右上:地下にあるスパのプールは元金の延べ棒の保管室だったところ。各種トリートメントも受けられます。ルーフトップにもプールがありますが、こちらはメンバー専用 左下:グリーンマーブルの柱が92本ある元銀行のメインホール。黒白のマーブルの床は古い写真を元に再現されています 右下:元貸金庫の中はメンバー専用のプールやバーに
The Ned
No_04
4本煙突の元発電所が目の前、
ルーフトップからの眺めが抜群/art’otel Battersea
4本の煙突でお馴染みのロンドンのランドマーク「バタシー パワーステーション」は、1955 年に開業した元火力発電所。1980年代に閉鎖以来、長年廃墟化していましたが、ようやくその再開発が一段落。発電所はショップやオフィス、レジデンスの複合施設に。その隣にできたフォシター&パートナーズ設計の新築ビル内にオープンしたのが、art’otel Battersea(アートオテル バタシー)です。
オランダやドイツにもあるart’otel は、アートコレクターによって創設され、各ホテルとも絵画や彫刻が点在するギャラリーのようなホテルです。イギリス初進出になるこちらは、内装や展示のキュレーションを有名アーティスト&デザイナー、ハイメ・アジョンが手掛けています。
インテリアはスペイン出身のアジョンらしくカラフルでポップ、ちょっとシュールな作品があちこちに。一瞬、ロンドンにいることを忘れそうですが、ルーフトップに上がれば目の前に発電所の4本の煙突がドーン。その先にはロンドンの全景が広がります。バー、ガーデン、小さい温水プールもあり、カクテル片手にプールから展望を楽しむという、贅沢な体験もできます。
164室ある客室は各タイプありますが、アジョンの家具やアートの楽しい演出で気分が上がります。さらに館内を巡るアートツアーなどのイベントの用意も。レストランは一階と最上階に2つ。スパやジムも充実しています。ロンドン中心地まで、新しく延長された地下鉄で15分程度。テムズ川を走る水上バスも利用できる最新のホテルです。
上:バタシー パワーステーションの煙突の真ん前にあるホテルのルーフトップのプール。左奥の煙突は展望台にもなっています 左上:窓からパワーステーションが見えるこちらの客室は「マスターピーススイート」。メガネのようなミラーやカラフルな家具に癒されます 右上:エントランス奥のロビー。写真はオランダのアーティストデュオ・Klunderbieの作品 左下:一階奥にあるTozi Grand Cafe。アジョンがデザインしたタペストリーが目をひきます 右下:エントランスで出迎えをしてくれる、アジョンの彫刻作品
art’otel Battersea
住所_1 Electric Blvd, Nine Elms, London SW11 8BJ
https://artotellondonbattersea.com
Instagram_@artotel
編集者・ライター
山下めぐみ
ロンドンをベースに世界各地の建築やデザインについて取材執筆する。在英期間はほぼ30年。これまで学んできたことを伝え、交流の場となるプラットフォーム Architabi (アーキタビ)を主宰する。
Instagram @architabi