アップデートする英国式のブレックファスト
ーModern English Breakfast from LONDONー

Text: YUKA HASEGAWA
Photo: SHU TOMIOKA

その起源は、中世のカントリーハウスでの大地主の朝食まで遡ると言われる、英国を代表する料理としてあまりにも有名な“イングリッシュブレックファスト”。ベーコンやソーセージ、目玉焼きにグリルドトマトやマッシュルーム、さらにはベイクドビーンズなど様々な要素がワンプレートにギュッと詰まった英国式朝食は、時代を超えて今もなお国民食として人々に愛されています。特に最近では、朝食としてだけでなく、モダンにアレンジされた“イングリッシュブレックファスト”が、地元のカフェレストランのオールデーメニューとしてラインアップされ、ミレニアム世代のロンドナーに人気です。伝統をリスペクトしつつ、時勢に合わせた変化を厭わずに新しいものを築いていくクリエイティビティは、アクアスキュータムの精神にも通づる英国人スピリットとも言えるでしょう。今回は、新しい息吹が吹き込まれた“イングリッシュブレックファスト”が楽しめる、ロンドンのおすすめスポットをご紹介します。

No_01
ヒップなロンドナーが集う複合スペース内の、
ゴージャスな空間で味わう英国式朝食/Mare Street Market

ウィークデーは午前中のみ、週末は一日中サーブされる店の一番人気「マーケット ブレックファスト」。天然酵母で作られる、地元のアルチザンベーカリーのサワードウブレッドのトーストは、今や英国式朝食の定番

 若者に人気の東ロンドン・ハックニー地区に位置し、カフェレストラン、バー、デリ、フローリストにレコードショップやタトゥスタジオまで併設する、ファンキーな大規模複合スペース「メア ストリート マーケット」。特に、その美しさに息をのむ「シャンデリア ルーム」と呼ばれるダイニングスペースは、週末はなかなか予約が取れないほど人気です。看板メニューは、カンバーランドソーセージ、カリカリに焼かれた香ばしいストリーキー(三枚肉)ベーコン、食べ応えのあるポートベローマッシュルームなどがのった「マーケット ブレックファスト」。また、プラントベースのソーセージや、独特の食感と塩気を持つキプロス発祥のハルミチーズのグリル、ポーチドエッグなどで構成される「ベジ ブレックファスト」も、ベジタリアンが多いロンドンナーのライフスタイルを反映しています。昼間はPCを持ち込み仕事に勤しむ人々が三々午後集い、夜はDJバーにもなる、地元の人々に愛されている注目のお店です。

ロンドンを代表するインテリアショップ・ピュア ホワイト ラインズ(www.purewhitelines.com)とコラボレーションして、ヴィンテージシャンデリアなどで埋め尽くされた店内は圧巻。シャンデリアを始め、テーブルやチェアなどすべて購入可

左上:ミートフリーの「ベジ ブレックファスト」は、皿の上中央にあるプラントベースのヴィーガンソーセージとハッシュドポテト付き。今ロンドンでは中東料理ブームが起きており、よく使われる食材として有名なハルミチーズが皿の左上に。こんがり焼いても溶けないのが特徴で、キュッキュッという食感が病みつきになる塩漬けのチーズです 右上:英国産のチャツネやジャム、スペインやイタリアからの選りすぐりのオリーブ油などが揃うデリカテッセン 左下:パステルブルーがトレードマークのお洒落なフローリストも併設 右下:ヴィンテージのチェアやアーティなオブジェが散りばめられたシャンデリアルームの一角

Mare Street Market

住所_117 Mare Street, London E8 4RU

営業時間_9:00〜22:00

※食事以外のバータイムは月〜木・日が22:00〜24:00、金・土は22:00〜25:00

定休日_無休

Instagram_ @marestreetmarket

No_02
トレンドの発信地であるショーディッチで、
地元のクリエーターたちに人気のデリカフェ/Franzè & Evans

英国式朝食の不可欠アイテムである、大振りで肉厚、うま味を十分に含んだポートベトローマッシュルームをタイム&ガーリックソースで焼き上げるなど、ワンプレートにのった一品々が丁寧に調理された「F&E ブレックファスト」

 2008年に東ロンドン、ショーディッチ地区にオープンして以来、このエリアを拠点とするアーティストやクリエーター、地元の若いロンドナーが足繁く通うデリカフェ「フランツェ&エヴァンス」。店をディレクションするイタリア系のニコラさん、いとこでパティシエのテレサさんによって開業された家族経営のカフェで、イタリアンの影響を受けたホームメイドの料理や、大皿にのった独創的なサラダで定評があります。一般的なイングリッシュブレックファストのベイクドビーンズといえば、白インゲン豆を甘めのトマトソースで煮込みますが、この店のシグニチャーメニュー「F&E ブレックファスト」は、ニコラさんたちのおばあちゃんのレシピで作るうずら豆のトマトソースが特徴。ナッツのような風味のうずら豆と、バジルの効いた濃厚なイタリアンソースで、ひと味違った英国式朝食が楽しめます。そのほかヴィーガン版のブレックファスト、グルテンフリーやライ麦パンのトーストなど、様々なオプションがあるのもこの店が人気である理由のひとつです。テレサさんが手がけるケーキ、ペイストリーの質の高さにも定評があり、看板であるレモンとズッキーニのパウンドケーキは、多くの常連客に愛されています。

カウンターの壁に敷き詰められた白いタイル、フロアはブラック&ホワイトのタイルというシックなモノトーンに、ガラス細工で世界的に有名なイタリア・ベニスのムラーノ島で作られた、モダンで優美なシャンデリアが小粋なアクセントとなっている店内。カウンターのショーケース内のサラダも人気

左上:店のスタッフもみんなフレンドリー。賑やかなショーディッチ地区の中心部にありながら、リラックスした雰囲気が満喫できるスポット 右上:常連客の間で人気の「ヴィーガンF&E」。自家製ハッシュドポテト、イタリア産エクストラバージンオリーブオイルと岩塩を軽くあしらった緑鮮やかなアボカドが、この一皿にフレッシュな彩りと食感を添えています 左下:カウンターの左手には、数々のケーキやスイーツがディスプレイされ、見ているだけでも楽しい 右下:ヘルシーコンシャスな、スムージーのラインアップにも定評があります

Franzè & Evans

住所_ 101 Redchurch Street, Shoreditch, London, E2 7DL

営業時間_9:00〜18:00(土・日曜は9:30〜19:00)

*キッチンは15:00(土・日曜は16:30)まで

定休日_無休

Instagram_ @franzeevans

No_03
イングリッシュブレックファストに特化した、
北ロンドンのネイバーフッドカフェ/Blighty

右下のちょっとギョッとするような骨が、ボーンマロー。その下の黒い円形がブラックプディング。肉々しい構成とはいえ、ブルーの皿をベースにした盛り付け方が目を引きます

 英国中西部の出身で、幼少時から家で食べる “イングリッシュブレックファスト”が大好きだった店のオーナー、クリス・エバンスさんが、自ら最高のブレックファストとコーヒーをロンドンで提供したいと、2013年に北ロンドンにオープンしたのがここ「ブライティ」です。開業にあたり、食材を探して英国各地を回り、シェフとともに納得のいく一皿を完成させていったそう。そのオーナーのこだわりが色濃く反映された「フル イングリッシュ ブレックファスト」のワンプレートには、コクのあるトロトロの脂を食すボーンマロー(骨髄)や、英北部やスコットランドの名物、豚の血にオーツ麦やハーブを混ぜ合わせた円形ソーセージのブラックプディングなど、英国が誇る地方の伝統料理の粋が詰まっています。また、「フル ヴィーガン ブレックファスト」も人気があり、グリルしたアスパラとほうれん草のソテーとともに供される、肉の代わりに添えられたカレー味の豆腐の炒め物が美味。週末はブラッディマリーなどのカクテルと共に、英国式朝食をブランチとして楽しむカップルやグループなどで賑わいをみせています。

左上:ガーデンテラス席が見下ろせる大きな窓から、穏やかな日差しが入る気持ちのいい店内の2階部 右上:「フル ヴィーガン ブレックファスト」の豆腐炒め。サワードウブレッドのトーストも、バターではなくオリーブオイルがかけられています 左下:ルワンダ産のアラビカ豆を買い付け、ロンドンで自家焙煎している高品質のコーヒーにも定評があり、地元の常連客のロイヤリティーカードが壁に貼られています 右下:独特のインパクトを放っている、故エリザベス女王をモチーフにしたパンクなアート作品

店名の「Blighty」とは、英国という意味。それにちなんだ、ウィリアム・モリスの壁紙、007のポスター、パディントンベアなど、英国的なもので埋め尽くされた個性的な空間。リサイクルの椅子やテーブルなどもロンドナーに人気

Blighty

住所_ 35-37 Blackstock Road, London N4 2JF

営業時間_8:00〜16:00 (土・日は9:00〜17:00)

定休日_無休

Instagram_ @blightyfinsbury

No_04
英国屈指の食材を使用した、
絶品“イングリッシュブレックファスト”が堪能できる店/The Black Penny

放し飼いで育てられた、英国屈指のオーガニックの卵「カックルベリーファーム」が使用された、イングリッシュブレックファスト「ザ ハンター」。卵は目玉焼き、ポーチド、スクランブルなどお好みで調理してくれるのも嬉しい

 ロンドンの中心地、コベントガーデンに位置する「ザ ブラック ペニー」。老舗のコーヒーショップとして定評がありますが、イングリッシュブレックファスト各種をメインにしたオールデーメニューで、地元の人々に絶大な人気を誇ります。店の自慢は、バタービーンズを使用する特製ベイクドビーンズ。豆の持つ優しい甘みとクリーミーな食感とともに、ほんのりとスパイスを効かせたトマトソースの味わいが口の中に広がります。加えて、英国を代表する錚々たるベーカリーから仕入れるサワードウブレッド、信頼の置ける精肉店からのソーセージやベーコン、オーガニックの卵など、全ての食材が一級品。また “ヴィーガンブレックファスト”は、サワードウブレッドにバタービーンズのフムスを塗り、その上にみずみずしいトマトサラダがあしらわれた味わい深い一皿。この店に来れば、英作家、サマセット・モームが、「英国で美味しい食事をしたければ、1日に3回朝食をとればいい」と言ったという話に納得させられます。

左上:人気のヴィーガンブレックファスト「ザ フォリジャー」。グルテンフリーのサワードウブレッドのオプションも 右上:こぢんまりとしたダイニングスペースの壁にかかる、店のトレードマークのアンティークな自転車が印象的 左下:ガラスのショーケースには、店の自慢の大皿に盛られたサラダが並びます。ランチタイムには、地元のワーカーたちが行列を作るほど 右下:スイーツ、ケーキ類もおすすめ

レンガの壁とヴィンテージ感あふれるライティングのデコレーションが、一際目を引く店内のインテリア

The Black Penny

住所_ 34 Great Queen Street, Covent Garden, London, WC2B 5AA

営業時間_8:00〜18:00(土曜は9:00〜18:00、日曜は9:00〜17:00)

定休日_無休

Instagram_ @theblackpennylondon

編集者・ライター

長谷川ゆか

はせがわ・ゆか ロンドン在住の編集者・ライター。1991年渡英以来、人物インタビュー、ライフスタイル、食や旅など幅広いトピックスで、女性誌や機内誌、クレジットカード雑誌などに英国発の記事を寄稿。ここ数年は“サステナビリティ”をテーマに、リサーチ&執筆中。ロンドン郊外の森歩きとイングリッシュローズ、日本酒とクラフトジンをこよなく愛する。

Instagram_ @yukalondon

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