才能のある贋作家たちは、時に本家を越えることもある
こんにちは、チャーリー・モルデカイです。
一応、わたしくしは貴族階級の出身で、普段は社交界の仲間たちと乗馬や狩りに出かけたり、適当に遊んでいるんだけど、どうも性に合わない。それゆえに、映画でも描かれた通り、こっそり裏社会で美術商を営んでいるんです。盗品から贋作まで、さまざまな作品を販売していますね。あまりうまくいっているとは言えませんが、正直最後は親の勲章でも売ってしまえば言いわけですから、それほど焦りはありません。
美術は一応勉強していますから、真贋を見抜く目くらいは持っています。そんな中で一番おもしろいのは、堂々と作品を真似た上で、本家よりも表現、技術を上回る作品とたまに出合うことです。インスパイアや、オマージュなんて概念がありますが、正直甘いですね。本当の表現者という人は、自分が最高だと思っていますから。わたくしが好きな贋作作家たちはお金のために作品をパクり、その上でどこか本物を超えてくる。もちろん、そんな作家たちは、自分の真の魅力を知らない。なぜ、才能を指摘しないのかって? もし、余計なことを言って才能に気が付いちゃったら、贋作なんか描かず、くだらないオリジナル作品を描き始めるに決まっているじゃないですか(笑)。
音楽の好みも、同じようなものです。マイケル・ジャクソンの「Bad」など、ヒット曲を次々とギャグにするアル・ヤンコビック。セックス・ピストルズのジョン・ライドンの実弟が結成したボロック・ブラザーズは、実際にエリザベス女王の邸宅へ泥棒に入った犯人をボーカルに誘い「God Save The Queen」(デビューアルバムのタイトルは『勝手にするとも!』)をカバーしています。本当にめちゃくちゃで、冗談でしかない。中には、ただのお騒がせな場合もある。しかし、真に魅力的な贋作は、どこか批評性や嫌味、毒が含まれていて、本当に魅力的なんです。機会があったら、是非聴いてみてください。
それではごきげんよう。また会う日まで。
PLAY LIST 9
DJ・音楽ライター
渡辺克己
雑誌『BRUTUS』を筆頭に主に音楽に関する記事のライティング、企画・編集・監修を行うフリーランスの音楽ライター。また都内のクラブなどを中心にDJとして活動している。映画好きでもあり、“サントラ・ブラザース”という名義でDJ仲間である鶴谷聡平、山崎真央とともに映画と音楽にまつわる座談をBRUTUS.jpにて連載している