今は暴力沙汰とか、信じられないですね。
お邪魔します、シド・ヴィシャスです。
これはアクアスキュータムのHPなんですか? いやぁ、自分なんかが出ちゃっていいんですかね? 実はうちの母が軍関係の仕事をしていたもので、イギリスの由緒正しい服装として、学生時代にトレンチコートをプレゼントされたんです。ずっと大切に着ていましたが、反抗期を迎えた頃、親へ反発するようにパンクのファッションに傾倒してしまいましたから。どこか複雑というか、恐縮なんですよね。
ご存知の通り、僕は、背はヒョロっと高いんですが、体型はガリガリで。イジメとまではいきませんでしたが、同級生からからかわれたこともありました。そのせいか、当時から、強くて豪快そうなアメリカのロックンローラーに憧れたんです。エルビスから始まり、ジェリー・リー・ルイスやエディ・コクランなんかよく聴きました。ビートルズやストーンズなど、イギリスのバンドは、これも今となっては恐縮ですが、どこか弱そうな気がして。でも、後でビートルズのみなさんは漁師街の出身で、腕っぷしがめちゃめちゃ強いと聞いて……ミュージシャン時代、調子に乗ってケンカを売るところでした。あぶないあぶない(笑)。
イギリスやフランスの音楽や映画は知性的で、ちょっとエスプリが効いている。もちろん、嫌いじゃありませんけど。それに対し、アメリカのショービジネス界は、エンターテイメントで、圧倒的に華やか。そこに打ちのめされた感じもあるんですよね。フランク・シナトラの「マイ・ウェイ」に関しては、おもしろい話があって。子供の頃からよく聴いていたし、ピストルズからジョン(ライドン)が脱退し、自分の進退について迷ったときに聴き、涙したこともありました。しかし、調べてみると「マイ・ウェイ」は、フランス人シンガーソングライターのクロクロこと、クロード・フランソワの作曲なんですよ。それを知った時、「ああ、自分はやっぱりヨーロッパの人間なんだな」と思いましたね。そういうちょっと複雑な気持ちも込めて、僕自身もパリのスタジオで「マイ・ウェイ」を歌い、レコーディングしましたね。よかったら、僕の「マイ・ウェイ」も聴いてみてくださいね。
では、みなさん、また会いましょう。
PLAY LIST 5
DJ・音楽ライター
渡辺克己
雑誌『BRUTUS』を筆頭に主に音楽に関する記事のライティング、企画・編集・監修を行うフリーランスの音楽ライター。また都内のクラブなどを中心にDJとして活動している。映画好きでもあり、“サントラ・ブラザース”という名義でDJ仲間である鶴谷聡平、山崎真央とともに映画と音楽にまつわる座談をBRUTUS.jpにて連載している