vol.02
“DJ マーガレット・サッチャー”

Text & Music selection: Katsumi Watanabe
Illustration: Terry Johnson
Plan & Edit: On-Point Design

トレンチコートが似合う歴史上の人物、映画の主人公がDJだったら何を選曲するのか!? そんなもしも企画が「なりきりDJアカス」。&AQが招いたDJアカスが毎回さまざまな人物になりきって、自己紹介とともに独自のプレイリストをお届け。第2回目は英国初の女性首相として知られるマーガレット・サッチャーにアカスがなりきります!

そうね、私は鉄の女と呼ばれた首相ですから

 こんにちは、マーガレット元イギリス首相です。

 私が1979年から内閣首相を務めたことで、“鉄の女”と呼ばれていたのは、ご存知のことだと思います。当時は本当に大変でした。国内の経済問題、紛争に、テロ。気を抜く暇もない日々。激務に追われるうち、ついたあだ名が“鉄の女”なんて……。正直、当初はショックでしたが、そんなことで折れてしまっては、王室や国のさらなる繁栄、国民たちだって守れない。決して負けることのない、本物の“鉄の女”になってやろうと考え、まずはレバーや赤身の魚から鉄分を取り、鉄筋コンクリートの家に住みました。

 現世を離れた今も続けていますが、タイトルに“鉄”と付いている曲ばかり集めて聴いています。自分でも病気と思います。

 まず、マーティ・ロビンズというアメリカのカントリーシンガー、クラシックや現代音楽しか聴かなかった私にとって、すごく爽快な曲でした。それに比べ、フィル・オキス『Iron Lady』だけど、切ないフォークソング。こういう優しさ、忙しい時はいらなかったけど、今になっては響くわね。

 ジャズならエリック・ドルフィーね。晩年に録音、没後にリリースされた『Iron Man』。それからクインシー・ジョーンズのドラマ『鬼刑事アイアンサイド』の主題曲。かの“キング・オブ・ポップ”ことマイケル・ジャクソンの制作を担当していた人物。王族を支える私にとって、親近感をおぼえる存在でした。

 イギリスのグループで、最も忌々しいと思っているのがブラック・サバス。なにが『黒い安息日』(日本発売時のタイトル)よ! 不謹慎にも程がある。でも、『Iron Man』のギターを聴くと、気合の入る自分がいます。

 ボブ・マーレイがイギリスでデビュー前に発表した『Iron Lion Zion』。見事に韻を踏んでいるわね。バビロンとは、我々のことも暗に指し示していると思うけど、強い意思を示した歌詞。立場は異なるけど、天晴だわ。

 最近ならウッドキッドの気持ちを鼓舞するような壮大なオーケストレーション。それから、ナイジェリアにルーツを持つアメリカのラッパーの心地の良いリズムとフロウがお気に入りです。

 “アイアン”という言葉が入ったグループ名は、やっぱりアイアン・メイデンなど、メタル系に多かった。どれも下品だけど、サバス同様、テンションを上げてくれる曲ばかり。

 この現代において、未だにブリっブリの女性ラッパーが「アイアン・ウーマン」という曲を出していないのが不思議です。我こそはという方、今すぐにリリースして欲しいものです。

 それでは、みなさん、ごきげんよう。

PLAY LIST 2

DJ・音楽ライター

渡辺克己

雑誌『BRUTUS』を筆頭に主に音楽に関する記事のライティング、企画・編集・監修を行うフリーランスの音楽ライター。また都内のクラブなどを中心にDJとして活動している。映画好きでもあり、“サントラ・ブラザース”という名義でDJ仲間である鶴谷聡平、山崎真央とともに映画と音楽にまつわる座談をBRUTUS.jpにて連載している

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